5. Beneath the face of innocence there is a lesson that the concept of the self was made to teach.
- beneath [biníːθ] : 「〜の真下に」
- innocence [ínəsəns] : 「無罪、潔白、無邪気、無垢、純潔」
- concept [kάnsept] : 「概念、観念、考え」
- teach [tíːtʃ] : 「〜を教える、指導する」
❖ "Beneath the face ~ "「潔癖な顔の下に、自己概念が(ある教えを)教えるために作られたレッスンがある」。下手な訳で申し訳ない。偽善的な自己の側面の下に、つまり、善良な顔をしている表面的な自己のその下に、他者の裏切りに対して憎悪を覚えたり自己を防衛するために他者への攻撃を正当化したりする自己の暗い一面が潜んでおり、その存在を学ぶためのレッスンが必要である。自己概念の形成とは、そのレッスンを学ぶために作られたと言っていい。この自己概念は幻想の自己なのだが、その存在理由は、幻想の自己を通して、真実の自己を学ぶためなのだ。実は、幻想の自己概念に限らず、この幻想世界の本当の存在理由は、それが幻想であると見抜かれて、真実の実相世界に目覚めるためにあるのだと言ってよい。あたかも、嘘を通して真実を知るようなものである。真実を知るために、嘘が必要だったのだと思えばいい。
It is a lesson in a terrible displacement, and a fear so devastating that the face that smiles above it must forever look away, lest it perceive the treachery it hides.
- terrible [térəbl] : 「ひどく嫌な、とても不快な、恐ろしい、怖い」
- displacement [displéismənt] : 「置き換え、転移、変位」
- fear [fíər] : 「恐れ、恐怖、懸念、心配、不安」
- devastating [dévəstèitiŋ] : 「破壊的な、壊滅的な、衝撃的な」
- smile [smáil] : 「声を立てずに笑う、ほほ笑む、微笑する」
- above [əbʌ́v] : 「〜よりも上側に、〜の上に」
- forever [fərévər] : 「永遠に、永久に」
- look away : 「横を向く、よそ見する、目をそらす、目を背ける」
- lest [lést] : 「〜しないように、〜するといけないから」
- perceive [pərsíːv] : 「知覚する、〜に気付く、〜を見抜く」
- treachery [trétʃəri] : 「不信、背信、不実、欺瞞、裏切り」
- hide [háid] : 「隠す、隠蔽する、秘密にする」
❖ "It is a lesson in ~ "「それは、怖い価値転換のレッスンである」。善良であると思っていた自分が、実はその影に悪意を持っていることを教えるレッスンであるから、自己への価値観がひっくり返って、怖い思いがするのだ。"and a fear so ~ "「恐れがあまりに破壊的であるので、その上で笑っている顔は永遠に目を逸らさずにいられない」。"the face that smiles above it"「その上で笑っている顔」とは、憎悪や攻撃性を隠し持った自己の暗い心の奥底の、その上層部に表れる表面的な善良な自己の側面、ということ。その偽善的な自己は、自分の心の奥底の憎悪や攻撃性から目を逸らし続ける。自分にそんな一面があることが恐ろしいからだ。"lest it perceive ~ "「隠し持った欺瞞を知覚しないようにするためである」。自己欺瞞を認識しないように、心の奥底の醜悪さから目を逸らし続けるのである。
The lesson teaches this: "I am the thing you made of me, and as you look on me, you stand condemned because of what I am."
- condemned [kəndémd] : 「有罪と宣告された、有罪の判決を受けた」
❖ "The lesson teaches ~ "「そのレッスンは、次のように教えている」。"I am the thing you ~ "意訳する、「私をこんな風に作ったのはあなただ」。心の奥底の憎悪や攻撃性を作ったのはあなた自身である。"and as you look on ~ "「あなたが私を見るとき、私が何であるかということを理由に、あなたは有罪とされるのだ」。あなたが自分の心の奥底に目を向けると(as you look on me)、そこにあなたの本性(what I am)が見て取れて、醜悪な憎悪や怒りや攻撃性を持っていることを理由として、あなたは自分で自分を罪ある人間であると有罪の判定を下す(stand condemned)。
蛇足になるが、表面的な偽善の欺瞞的自己概念は、隠し持った憎悪や怒りや攻撃性を罪と判断して、隠し通そうとする。しかし、憎悪や怒りや攻撃性という負の想念は非常に強力なパワーをもっており、おとなしく隠されたままに眠り続けることはない。チャンスがあれば、あなたの現実生活の表面に怒濤のように出て来ようとする。そこで、恐れをなすあなたは、自ら肉体的な痛みを作り出して、憎悪や怒りや攻撃性の出現から目を逸らせようとするのだ。痛みや病を自ら作り出して、自分の罪を罰し、帳尻を合わせようとする。自己欺瞞は自己をバッシングして、罪の意識を帳消しにしようとするのだ。
On this conception of the self the world smiles with approval, for it guarantees the pathways of the world are safely kept, and those who walk on them will not escape.
- conception [kənsépʃən] : 「思考、構想、観念」
- approval [əprúːvəl] : 「承認、認可、賛成、賛同、是認、同意」
- guarantee [ɡæ̀rəntíː] : 「保証する、請け合う」
- pathway [pǽθwey] : 「小道、歩道、通路、経路、進路」
- safely [séifli] : 「安全に、支障なく、無事に」
- kept [képt] : 「keepの過去・過去分詞形」
- those who : 「〜する人々」
- escape [iskéip] : 「逃げる、ずらかる、脱出する、抜ける」
❖ "On this conception ~ "「この(偽善的、欺瞞的)自己概念に対して、この世界は薄笑いを浮かべながら、これで良しとする」。"for it guarantees ~ "「なぜなら、(偽善的、欺瞞的)自己概念は、この世界が安全に保たれるような道を保証してくれるからであり、その道を歩く者は決して逃れられないからだ」。自分は善良であるとする偽善的、欺瞞的自己概念の側面も、その心の奥底に隠し持った憎悪や怒りや攻撃性という側面も、共にこの幻想世界における自己概念の幻想的側面である。善と悪に二極分化した幻想が、自己欺瞞を通して力比べをしているのだ。こうやって分裂した二者を戦わせておけば、幻想から目覚めて実相に回帰しようなどとは露ほども思わないだろう。かくして、幻想の世界は安泰であり、もちろん、それを指揮するエゴという偶像も安泰なのだ。
たとえば、世界を支配する大国が、それに従わない小国を牛耳るにはどうするか? その小国を、政府側と反政府側とに二分して戦わせるのである。小国は内乱で疲弊し、かくして、大国は安泰となる。エゴと世界の戦略も同様なのだ。ところが、政府側と反政府側とに二分され戦った小国は、ただ疲弊するだけで終わるだろうか? いや、二分し戦わせた大国に対して、その小国の憎悪の目は向けられる。こうして、内部への憎悪と怒りは外部へと向かい、内外の憎悪と怒りが絡み合って複雑化し、争いの様相は収拾のつかない頂点に達する。
6. Here is the central lesson that ensures your brother is condemned eternally. For what you are has now become his sin.
- central [séntrəl] : 「中心の、中央の、主要な、重要な」
- ensure [inʃúər] : 「〜を確かにする、保証する、請け合う」
- eternally [itə́ːrnəli] : 「永久に、絶えず、変わることなく、永遠に」
- become [bikʌ́m] : 「〜になる」
- sin [sín] : 「罪、罪悪、ばかげたこと、過失、罪業」
❖ "Here is the central ~ "「ここに、レッスンの中心があり、それは、」"that ensures your ~ "「あなたの同胞が、永遠に、(罪有りと)非難されるべき者だということ(を教えるレッスン)である」。"For what you are ~ "「なぜなら、本来のあなたが、今や、同胞の罪になってしまったからだ」。あなたの欺瞞的自己概念は、心の奥底に憎悪や怒りや攻撃性を垣間見て、そんな悪感情をもつ自分には罪があると思い、自分自身に有罪を宣言する。ところが、その罪の意識を生み出した元を正せば、他者の裏切りであり他者の攻撃である。ならば、自分に罪の意識を抱かせた張本人は他者であって、大本(おおもと)の罪は他者にあるのだ。永遠に責められるべきは、あなたの同胞である。こう信じることで、あなたの罪は、今や同胞の罪となるのである。二分化された小国が、大本の大国にその罪を宣言するのと同じである。
そもそも、あなたと同胞は一体であり、同胞は鏡に写ったあなた自身である。同胞に罪を宣言することは、自分に罪を宣言することと等しく、あなたの心の憎悪や怒りや攻撃性が、同胞の姿を通して顕現されたと思えばいい。同胞の罪は、あなたの罪の偶像なのだ。象徴なのである。
For this is no forgiveness possible. No longer does it matter what he does, for your accusing finger points to him, unwavering and deadly in its aim.
- forgiveness [fərɡívnis] : 「許すこと、許し、容赦、寛容」
- possible [pάsəbl] : 「可能性がある、起こり得る、あり得る」
- no longer : 「もはや〜でない」
- matter [mǽtər] : 「重要である」
- accusing [əkjúːziŋ] : 「告発する、非難するような」
- accusing finger : 「非難の矛先」
- point [pɔ́int] to : 「〜を指さす、〜を指摘する、〜を提示する」
- unwavering [ʌnwéivəriŋ] : 「動揺しない、断固とした」
- deadly [dédli] : 「恐ろしく、ひどく、全く、極度に」
- aim [éim] : 「的、標的」
❖ "For this is no ~ "「なぜなら、これはもう、赦しが可能な状態ではないからだ」。偽善的、自己欺瞞的自己は、自分の隠し持った憎悪や怒りや攻撃性を現実化してしまったのだ。それは、同胞の罪を宣言することで、同胞の罪を現実化してしまったがために、同時に自己の罪も現実化してしまったということである。罪という幻想を赦す領域を越えてしまったのだ。罪という幻想に完全に支配され、赦しによって幻想の罪から開放される可能性のない状態に陥ってしまったのだ。"No longer does ~ " 「もはや、同胞が何をなしたか、問題ではない」。"for your accusing ~ "「なぜなら、あなたの非難の矛先は同胞に向かっており、揺るぎなく、完全に狙いが定められてしまったからだ」。今や、あなたの自己欺瞞的な自己概念は、自分の心の奥底の矛盾に向かわずに、外の世界、他者である同胞に向かう。内向的憎悪と怒りと攻撃性は、外向して同胞に照準を合わせる。かつて、あなたがいたわった同胞を、今度は激しく攻撃するのだ。見せ掛けの愛は、根深い憎悪へと変わった。もはや、隠し通すことなく、あなたは憎悪と怒りと攻撃性を生きることになる。あなたは、罪そのものを生きることになるのだ。したがって、あなたはますます、罪ある自己を罰する方向へと進んでいくのである。ドストエフスキーが言うように、盲目的宗教に逃れるか、自殺するか、発狂するか、の選択となる。幻想地獄とは、そういうことである。
It points to you as well, but this is kept still deeper in the mists below the face of innocence.
- as well : 「同じに、同様にうまく」
- deep [díːp] : 「深い、深さがある」
- mist [míst] : 「霧、かすみ、もや」
- below [bilóu] : 「〜より下に、〜の下方に」
❖ "It points to you ~ "「その矛先は、あなたにも同様に向けられる」。あなたと同胞は同体なので、当然、同胞を罪としたあなたの非難は、あなた自身の心の奥底の憎悪や怒りや攻撃性にも向けられる。"but this is kept ~ "「しかし、これは、潔癖さを装う顔の下の靄(もや)の中深くに、いまだに保持されている」。非難の矛先の向かう先は、あなたの心の奥底にある深い靄に包まれた憎悪や怒りや攻撃性という、つまり、あなたに罪の意識を抱かせる悪感情である。今や、偽善的な自己概念の敵は、同胞であり、あなた自身ということになったのだ。
And in these shrouded vaults are all his sins and yours preserved and kept in darkness, where they cannot be perceived as errors, which the light would surely show.
- shroud [ʃráud] : 「覆う、包む」
- vault [vɔ́ːlt] : 「アーチ形の天井、円天井、地下墓所、ひつぎ保護容器」
- preserve [prizə́ːrv] : 「〜を保つ、保存する、貯蔵する、保護する」
- darkness [dάːrknis] : 「暗がり、暗闇、秘密、内密」
- error [érər] : 「誤り、間違い」
- light [láit] : 「光、明かり」
- surely [ʃúərli] : 「疑いなく、しっかりと、確かに、確実に、必ず」
- show [ʃóu] : 「見せる、見えるようにする」
❖ "And in these shrouded ~ "「この靄で包まれた地下墓地の中で、同胞の罪とあなたの罪が保持され、闇の中に隠され続ける」。"where they cannot ~ "「そこでは、罪は誤りであると知覚される可能性はなく、」"which the light ~ "「罪が誤りであるということは、光が確実に示してくれるものなのだ」。あなたの罪も同胞の罪も幻想に過ぎない。幻想の二元論世界で生きていくためにエゴによって学ばされた幻想の罪なのだ。それは、心の奥深くに保持されて靄に包まれ、通常の感覚器官や理性では、その幻想性は知覚出来ない。実相的な真実を照らし出してくれる光によってのみ、その幻想性は明るみに出され得るのだ。つまり、実相に目覚めて真実の光を得るまでは、罪の幻想地獄から抜け出すことは不可能なのだ。
You can be neither blamed for what you are, nor can you change the things it makes you do.
- neither [níːðər] A nor B : 「AでもなくBでもない、AとBのどちらも〜ない」
- blame [bléim] : 「非難する、とがめる、責める」
- change [tʃéindʒ] : 「〜を変える、〜を変更する、〜を変換する」
❖ "You can be neither ~ "「あなたが何であるかということで、あなたが責められることは不可能であるし、それがあなたにさせたことを、あなたは変えることも出来ない」。"what you are"「あなたが何であるかということ、あなたの本性、本当のあなたの姿、等々」とは、心の奥底に隠し持った憎悪や怒りや攻撃性、そしてそれに対する罪の意識のこと。あなたの本性がそうであるとしても、それは他者の裏切りによって生じた、いわば正当防衛的な感情であり、正当防衛的な罪であるから、誰によっても責められることはない。ましてや、正当防衛的な感情によってなしたことを、あなたは真実の正当に変えることも出来ない。あなたは、自分の罪は誰からも責められることはない、罰せられることはないと信じているが、実は、肉体的な痛みや病によって自己を罰しているのだ。責められることも罰せられることもない罪によってなされたことは、悔い改めて変える必要さえないと信じているが、そう思う分だけ、苦渋は増えていく。
Your brother then is symbol of your sins to you who are but silently, and yet with ceaseless urgency, condemning still your brother for the hated thing you are.
- symbol [símbl] : 「象徴、シンボル」
- silently [sáiləntli] : 「静かに、黙って、無言で」
- ceaseless [síːslis] : 「絶え間ない、絶え間のない」
- urgency [ə́ːrdʒənsi] : 「しつこさ、強引さ、緊急性、切迫感」
- condemn [kəndém] : 「〜を非難する、責める、〜に有罪の判決を下す」
- hated [héitd] : 「憎まれた、嫌われた」
❖ "Your brother then ~ "「こうして、あなたの同胞は、あなたにとってあなたの罪の象徴となる」。あなたの心の中の罪が、鏡の中の同胞の罪として、あなたの目の前に現れる。あなたは自分の罪の意識を、同胞へ投射しているのだ。あなたが目にするものはすべて、あなたの心の投射なのである。"who are but ~ "「そういうあなたは、押し黙ったまま、しかし、絶え間ない危機感に嘖まれ、あなたが嫌な人間にされたことで、同胞を責め続けるのだ」。同胞さえ裏切らなかったら、あなたは善良な人間として、自分の嫌な一面である憎悪や怒りや攻撃性を見ずにすんだはずだと思っている。自分に罪の意識を抱かせた張本人は同胞であって、同胞は責めるに値する。しかし、そうは思うものの、あなたの心は穏やかではない。心のどこかで、このからくりの矛盾に気が付いているのだ。その矛盾を指摘されたなら、今度は本当に自分が罪ある人間にされるのではないかと、絶え間ない危機感に嘖まれる。どんなに口を閉じて押し黙ってみても、心の奥底にある罪の意識の靄は晴れることはない。自分の罪の意識が、化け物のように心から抜け出して、同胞の心にその姿を表していることに気付いているのだ。同胞の罪が、あなたの罪の象徴であることを知ってしまうのである。あなたは、自己の罪を外部に投射し、そこに罪の象徴を築き、偶像を祭る。そのすべてが、実は、あなた自身なのである。