XII. The Needless Sacrifice
不必要な犠牲
1. Beyond the poor attraction of the special love relationship, and always obscured by it, is the powerful attraction of the Father for His Son. - beyond [bi(j)ɑ́nd] : 「〜の域を越えて、〜を超越して、〜の向こうに」
- poor [púə(r)] : 「貧しい、乏しい、弱い、貧弱な、不幸な、哀れな」
- attraction [ətrǽk∫n] : 「魅力、誘引、引力、引き付けるもの」
- special [spé∫l] : 「特別な、独特の、特別の、特有の」
- relationship [riléi∫n∫ìp] : 「関係、結び付き、かかわり合い、関連」
- always [ɔ́ː(l)weiz] : 「いつも、常に」
- obscure [əbskjúə(r)] : 「覆い隠す、〜を暗くする、見えなくする、曖昧にする」
- powerful [páuə(r)fl] : 「強い、強力な、力強い、迫力のある」
❖ "Beyond the poor attraction ~ "「特別な愛の関係のもつ貧しい魅力を超えて、」"and always obscured ~ "「それによって常に曖昧にされてきたのだが、」"is the powerful attraction ~ "「神の子を惹きつける、神の迫力ある魅力が存在する」。"the special love relationship"「特別な愛の関係」とは、簡単に言えば、その代表として、この幻想世界の男女の愛情関係と思っていい(もちろん、それに限定する必要はないのだが)。愛憎渦巻く変化流動と、そして、孤立と対立を生む愛情関係のことだ。それを、"the poor attraction"「貧しい魅力」と言っている。
There is no other love that can satisfy you, because there is no other love. - satisfy [sǽtisfài] : 「〜を満足させる、納得させる、充足させる」
❖ "There is no other love ~ "「(神の愛をおいて、)あなたを満足させる愛は他にない」。"because there is ~ "「なぜなら、(神の愛をおいて、)他に愛はないからだ」。嫌悪や憎悪といった対立概念をもたない純粋な愛、神聖な愛が実相世界の愛である、神の愛は完全平等、拡張増大する愛である。
This is the only love that is fully given and fully returned. Being complete, it asks nothing. - fully [fúli] : 「十分に、完全に、全く、すっかり、全体に」
- given [gívn] : 「give の過去分詞形」
- return [ritə́ː(r)n] : 「〜を返す、戻す、返却する」
- complete [kəmplíːt] : 「完璧な、完全な」
- ask [ǽsk] : 「〜を求める、〜を要求をする、〜を頼む」
❖ "This is the only love ~ "「神の愛こそ、完全に与えられ、完全に返される唯一の愛である」。"Being complete ~ "分詞構文、理由、「完璧であるので、神の愛は何も求めはしない」。神の真実の愛は、旧約聖書の神のように人間に信仰や服従を求めたりする愛ではない。何一つ、無理強いしないのだ。なぜなら、神の愛は完全に充足しており、何も必要としないからだ。
Being wholly pure, everyone joined in it has everything. This is not the basis for any relationship in which the ego enters. - wholly [hóu(l)li] : 「完全に、全く、全体として、全体的に」
- pure [pjúə(r)] : 「純粋な、清潔な、清らかな、きれいな」
- join [dʒɔ́in] : 「結び付ける、結合する、〜に加わる、〜に加入する」
- basis [béisis] : 「土台、基礎、基盤、根拠、理由」
- enter [éntə(r)] : 「〜に入る、〜に参加する、〜に立ち入る」
❖ "Being wholly pure ~ "「完全に純粋なので、その愛に結びついた者はすべて、あらゆるものをもっている」。あらゆるものと言っても、もちろん、物質を意味しているのだはない。想念として、あらゆるものをもっているのだ。"This is not the basis for ~ "「こういったことは、エゴが入り込むいかなる関係性の基盤にはなり得ない」。簡単に言えば、神の愛は、エゴの勧める愛とは完全に異なっている、ということ。そもそも、基盤自体が全く違うのだから。そこに打ち立てられる愛という建物も全く異質なのだ。
For every relationship on which the ego embarks is special.- embark [embɑ́ː(r)k] : 「乗船する、着手する」
- embark on : 「〜に乗り出す、〜に着手する、〜従事する」
❖ "For every relationship ~ "「なぜなら、エゴが乗り込む関係のすべては、特別性を有しているからだ」。この世界の男女の愛の関係に見られるように、エゴの関係性は、孤立と対立を生み、二人だけの小さな世界に埋没する。外部世界に対立し、敵を生む。そもそも、その愛は奪い奪われした愛であり、消耗する愛、変化流動する愛である。憎悪という対極概念を常に背中に背負った愛である。平等性を完全に欠いていることは言うまでもない。
2. The ego establishes relationships only to get something. And it would keep the giver bound to itself through guilt. - establish [istǽbli∫] : 「達成する、樹立する、確立する」
- keep [kíːp] [SVOC] : 「〜の状態にしておく、保つ、〜にしておく」
- bound [báund] : 「bind の過去・過去分詞形」
- bind [báind] : 「〜を縛る、結び付ける、〜を束縛する、拘束する」
- through [θruː] : 「経て、〜の中を通って、〜を介して、〜を通じて、〜の手を経て」
- guilt [gílt] : 「犯罪、あやまち、有罪、罪」
❖ "The ego establishes ~ "「エゴは、何かを得るためだけに、関係性を打ち立てる」。エゴの大鉄則、得るためには奪え、を思い出そう。"And it would keep ~ "「そして、エゴは、罪の意識を通して、与えるものをエゴに縛り付けておくだろう」。一人でいるのは孤独で寂しいから、誰かと関係を持ちたいと思うのだ。安寧を得るために関係性を持つ。しかし、そういった安易な関係性をもつことで、なぜ自分がそれほどに孤独で寂しいのか、その真の原因を問いかけることから逃げる。神から乖離した心が真の原因であることに気づかないままに終わる。神からの乖離で罪の意識を抱いてしまったことにも気付かず、罪の意識を、無意識の底の底に隠し持って終わる。全く、エゴの思う壺なのだ。
It is impossible for the ego to enter into any relationship without anger, for the ego believes that anger makes friends. - impossible [impɑ́səbl] : 「不可能な、とてもあり得ない、できない」
- enter [éntə(r)] : 「〜に入る、〜に参加する、〜に立ち入る」
- relationship [riléi∫n∫ìp] : 「関係、結び付き、かかわり合い、関連」
- anger [ǽŋgə(r)] : 「怒り、憤り」
- believe [bilíːv] : 「信じる、真に受ける、確信する」
❖ "It is impossible for the ego ~ "ここは"It ~ to ~ "の構文、「エゴにとって、怒りをもたずにいかなる関係性に入っていくことも不可能である」。エゴは、関係性の中に必ず怒りという感情を入り込ませる、ということ。"for the ego believes that ~ "「なぜなら、エゴは、怒りが友達を作ると信じているからだ」。怒りを敵に置き換えてみるといい。共通の敵を作ることで友人同士になるのである。敵を作る感情は怒りであり、憎しみだ。したがって、エゴの構築する関係性の基盤には怒りと憎悪が渦巻いている。その基盤から、得るためには奪え、という発想が生まれてくるのである。こういう基盤と関係性から、神の子が心を再統一させる可能性が生じて来るだろうか? あるいは、神の子は単一の存在で、自他一如であるという真実が見えてくる可能性はあるだろうか?
This is not its statement, but it is its purpose. For the ego really believes that it can get and keep by making guilty. - statement [stéitmənt] : 「声明、メッセージ、陳述、述べたこと、発言」
- purpose [pə́ː(r)pəs] : 「目的、意図、狙い、意向、趣旨、意味」
- really [ríː(ə)li] : 「実際には、ほんとうは、確かに、本当に、真に」
- guilty [gílti] : 「有罪の、犯罪的な、罪を犯した」
❖ "This is not its ~ "「関係性に怒りの感情を入り込ませるなどと、エゴは明言こそしない」。"but it is its ~ "「しかし、それはエゴの目的である」。"For the ego really believes that ~ "「なぜなら、エゴはthat以下を実際に信じているからだ」。"that it can get and ~ "、ここの"by making guilty"は"by making you guilty [SVOC]"「あなたを罪ある状態にすることで」、「あなたに罪の意識を持たせることで」と考えていい、「エゴは、あなたに罪の意識を持たせることで、怒りを持ち、また怒りを保持出来ると」信じているからだ。あなたに怒りを持たせ、他者を排他し攻撃するよう唆(そそのか)すのである。その目的は、神の子の分離を保つためである。実相世界への目覚めを阻止するためである。もしあなたが、真実に気がついて実相に目覚めたなら、幻想は消滅し、結果、エゴも消滅してしまうからだ。エゴはそれを最も恐れている。エゴは是が非でも、あなたに罪の意識と怒りを保持させ、他者を排他攻撃させて、神の子の分離を維持してもらわなくてはならないのである。
This is its one attraction; an attraction so weak that it would have no hold at all, except that no one recognizes it. - attraction [ətrǽk∫n] : 「引き付けるもの、引力、出し物、魅力、誘引」
- weak [wíːk] : 「弱い、劣っている、力がない、脆弱な」
- hold [hóuld] : 「握ること、支配力、威力、保留」
- except [iksépt] : 「ただし、除いて」
- recognize [rékəgnàiz] : 「〜を認識する、〜を認証する、認める、受け入れる」
❖ "This is its one ~ "「(心を怒りと罪の意識で武装するということも)エゴの魅力の一つであろう」。"an attraction so weak ~ "ここは"so ~ that ~ "の構文、「しかし、その魅力はあまりにも弱々しく、まったくエゴの保持出来るものではない」。"except that no ~ "「とは言え、だれもそれに気付かないのだが」。これを読んでいると、エゴの心理学は、ニヒリズムやエゴイズムの心理学を連想させる。犯罪心理学もそれに近いかもしれない。孤独、怒り、罪の意識、絶望、攻撃、弱さ、支配欲、略奪、破壊、等々、エゴの心理学用語は事欠くことはない。
For the ego always seems to attract through love, and has no attraction at all to anyone who perceives that it attracts through guilt.- always [ɔ́ː(l)weiz] : 「いつも、常に」
- seem [síːm] : 「〜のように見える、〜のように思える、〜のようだ」
- attract [ətrǽkt] : 「魅惑する、魅了する、引き込む、引き付ける」
- through [θruː] : 「〜を通じて、〜の手を経て、手を通して、〜を介して」
- perceive [pə(r)síːv] : 「知覚する、〜に気付く、〜を見抜く」
❖ "For the ego always seems ~ "「なぜなら、エゴはいつも、愛を介して引きつけているように見せているし、」"and has no attraction at all ~ "「エゴが罪の意識を介して引きつけていると知覚する者にはまったく魅力を感じないからだ」。エゴの作戦はこうである。罪の意識を抱いた者同士、孤独に苛まれた者同士、怒りに燃える者同士を引付け合わせるのである。そうして、その者同士に特別な関係を構築させ、ますます孤立させ、怒りに油を注ぎ、罪という傷口に塩をすり込むのである。彼らは怒りと痛みに耐えきれなくなり、外部に向かって爆発的な攻撃行動に出る。攻撃し、破壊し、奪い尽くす。これが、エゴの作戦であり目的である。しかし、こういった戦争状態を賛美し鼓舞しても、それに魅力を感じる者は少ないであろう。そこでエゴは、孤独な者同士、愛しあうことで孤独は癒えるだろうとか、怒りを持った者同士、愛を通じて怒りを鎮めることができるだとか、罪を持った者同士、傷を舐め合って慰めあうべきだとか、とかく愛や慈悲を匂わせて人を惹きつけるのである。だが、知恵ある者は決して騙されたりしたはいけない。エゴの戦略は実に巧妙なのである。