VIII. The Anti-Christ
反キリスト
1. What is an idol? Do you think you know? For idols are unrecognized as such, and never seen for what they really are.
- idol [áidl] : 「アイドル、偶像、崇拝される人、神像」
- unrecognized [ʌnrékəɡnàizd] : 「見分けられない、認識されていない」
- seen [síːn] : 「see の過去分詞形」
- really [ríəli] : 「実際には、ほんとうは、確かに、本当に」
❖ "What is an ~ "「偶像とは、何だろうか」。"Do you think ~ "「あなたは、偶像を知っていると思っているだろうか」。"For idols are unrecognized ~ "「なぜなら、偶像は、偶像として認識されることはなく、偶像が実際は何なのか、決して見られることもない」。偶像と一言で言うものの、その正体を正確に把握することは難しい。ここで語られる偶像とは、少なくとも、古代の人々が崇め奉った得体の知れない神々や、動物の化身などではない。あなたの目の前にいる『それ』が偶像である。
That is the only power that they have. Their purpose is obscure, and they are feared and worshipped, both, because you do not know what they are for, and why they have been made.
- power [páuər] : 「力、能力、勢力」
- purpose [pə́ːrpəs] : 「目的、意図、狙い、意向、趣旨、意味」
- obscure [əbskjúər] : 「曖昧な、不明瞭な」
- fear [fíər] : 「〜を恐れる、〜を怖がる」
- worship [wə́ːrʃip] : 「崇拝する、礼拝する、賛美する、敬愛する」
- both [bóuθ] : 「両方ともに、双方ともに」
❖ "That is the only ~ "「それが、偶像のもつ唯一のパワーである」。簡単には認識されないことが、つまり、得体の知られないことが、偶像のもつ唯一のパワーである。だから、容易にあなたの心の中に侵入出来るのである。侵入し、さらに、あなたの心を支配出来るのだ。"Their purpose is ~ "「偶像のもつ目的は曖昧であり、」"and they are feared ~ "「また、偶像は、恐れられ、同時に、崇められるのだ」。わけの分からない存在であるから、怖くもあり、同時に崇拝の対象にもなり得る。"because you do not ~ "「なぜなら、あなたは、偶像が何のためにあるのか、なぜ偶像が作られたのか、知らないからである」。偶像は、この幻想世界において、あなたの無意識が作った幻想ではあるが、無意識が作ったものであるからこそ、正体があなたには分からないのだ。なぜ作ったか、何のために作ったか、あなたの意識は知るよしもない。知らず知らずの内に、あなたの意識の中に侵入し、あなたの心を支配していくもの、それが偶像である。
An idol is an image of your brother that you would value more than what he is.
- image [ímidʒ] : 「イメージ、画像、像、映像、印象、心象」
- value [vǽljuː] : 「〜を評価する、重視する、大事にする、尊重する」
- more than : 「〜を超える、〜より多い、〜を上回る、〜より大きい」
❖ "An idol is an image ~ "「偶像は、あなたの同胞のイメージではあるが、あなたは、本来の同胞よりもより大きな価値を同胞のイメージに持たせるのである」。『何だ、偶像って同胞のことか』と思ってしまっては解釈を誤る。同胞に対して、あなたが与える付加価値を、偶像というのである。たとえば、あなたが、金持ちの同胞を羨んで、自分も彼のような金持ちになりたいと思った瞬間、金はあなたの偶像となる。社会的な地位のある立派な同胞を羨んだとき、社会的地位はあなたの偶像となる。権力を振り回す同胞が素晴らしい存在に思えた瞬間、権力はあなたの偶像になるのだ。美人でモテモテの彼女を羨んだとき、美貌はあなたの偶像となる。等々、である。
Idols are made that he may be replaced, no matter what their form. And it is this that never is perceived and recognized.
- replace [ripléis] : 「〜を取り換える、交換する、差し替える、置き換える」
- no matter what : 「たとえ何が〜であろうとも」
- form [fɔ́ːrm] : 「形、外形、構造、姿、体つき、外見」
- perceive [pərsíːv] : 「知覚する、〜に気付く、〜を見抜く」
- recognize [rékəgnàiz] : 「〜を認識する、〜を認証する、受け入れる」
❖ "Idols are made that ~ "ここの"that"は"so that"「〜するために、その結果」、「偶像は、それがどんな形をとるにせよ、同胞と置き換えるために作られたのだ」。偶像は、同胞それ自体ではなく、あなたが同胞に抱くイメージに置き換えられて、あなたの偶像となる。"And it is this that ~ "「決して知覚されたり認識されたりしないものが、これなのだ」。あなたは同胞を見て、同胞それ自体を見ていると思っているが、そうではない。あなたの心が勝手なイメージを作り上げて、そのイメージを同胞に置き換えて見ているのだ。それが、あなたの偶像となる。このからくりを、あなたは知覚も認識も出来ない。
Be it a body or a thing, a place, a situation or a circumstance, an object owned or wanted, or a right demanded or achieved, it is the same.
- place [pléis] : 「場所、個所、住所、席」
- situation [sìtʃuéiʃən] : 「状況、場所、状態、立場、事情、情勢」
- circumstance [sə́ːrkəmstæ̀ns] : 「周囲の事情、環境、状況、事情」
- object [ɑ́bdʒikt] : 「物、物体、物件、目的物、目標物」
- own [óun] : 「所有する」
- right [ráit] : 「正しい要求、正当な要求、当然の権利」
- demand [dimǽnd] : 「求める、要求する」
- achieve [ətʃíːv] : 「成し遂げる、達成する、成就する、獲得する、得る」
- same [séim] : 「同じ、同一の、変わらない」
❖ "Be it a body or a thing ~ "「たとえそれが、肉体であれ物であれ、場所、状況、環境、所有された物であれ、欲しいと思うものであれ、要求した権利、あるいは手に入れた権利であれ、すべては同じである」。肉体も物も、状況も権利も、すべては、あなたが勝手にイメージを作り上げ、対象とそのイメージを置き換えて、それをあなたの偶像として奉っているのである。たとえば、金を得たいと望めば、単なる紙切れの金が偶像となり、あなたは金を崇拝するようになる。金のために命を懸けることさえするのだ。そして、どんなに金が貯まっても、満足することはない。偶像の欲求を満たすために、ひたすら金を集めねばならないからだ。あなたは、金の奴隷となる。
2. Let not their form deceive you. Idols are but substitutes for your reality.
- deceive [disíːv] : 「欺く、惑わす、だます、裏切る」
- substitute [sʌ́bstətjùːt] : 「代わりのもの、代用品、代替、代理人」
- reality [riǽləti] : 「現実、真実、事実、実態、実相」
❖ "Let not their form ~ "「偶像のとる形に騙されてはいけない」。たとえば、偶像は、時として、愛という形をとることさえある。ところが、その愛を一皮むけば、そこに情欲が顔を出すことさえあるのだ。"Idols are but substitutes ~ "「偶像は、あなたの実相の代役に過ぎない」。あなたは外部世界に、あなたの望むイメージを投射して、そこに偶像を作り出す。本当のあなたは、実相の心なのだが、それに目を向けることなく、逆に、その代わりとしての偶像を外に求めてしまうのだ。
In some way, you believe they will complete your little self, for safety in a world perceived as dangerous, with forces massed against your confidence and peace of mind.
- In some way : 「どうかして、どうかすると」
- believe [bilíːv] : 「信じる、真に受ける、確信する、信頼す」
- complete [kəmplíːt] : 「完結した、完成した、完全な、全くの」
- safety [séifti] : 「安全性、無事、無難なもの」
- dangerous [déindʒərəs] : 「危険な、物騒な」
- force [fɔ́ːrs] : 「力、エネルギー、強さ、体力、腕力」
- mass [mǽs] : 「〜をひと塊にする、集結させる、集合させる」
- against [əɡéinst] : 「〜に反対して、〜に逆らって、〜にそむいて」
- confidence [kάnfədəns] : 「信頼、信用、信任、 確かさ、確信、自信」
- peace [píːs] : 「平和、安らぎ、平穏、安心、安定」
❖ "In some way, you ~ "「ややもすると、あなたは、偶像があなたのちっぽけな自己を完璧なものにしてくれると信じている」。偶像が、あなたにないものを補填してくれて、卑小な自分を完全な自己に変えてくれると信じている。"for safety in a world ~ "「そしてあなたは、あなたの確信や心の平和を妨害するために集まった力で満ちた、危険なものと知覚される世界の中で、安全を求めるのだ」。ちっぽけなあなたは、確信や平和を妨害する力で満ちた危険な世界にあって、自分を防御するために、偶像の力を借りるのだ。自分に欠けたものを補うことで、あなたは、強い自分にイメージチェンジする。偶像の仮面を付けるのだ。あなたが女性なら、スッピンで街は歩けないと言うかも知れないが、しかし、化粧を施すことで、あなたは堂々と街を歩ける。鈍くさい男でも、金がいっぱいあれば、みんながちやほやしてくれる。小役人ほどよく威張ると言うが、権力をもった憶病者は、他者を徹底的にいじめまくる。どれも、自分が崇拝する偶像の力を借りて、ちっぽけな自分を肥大化させて生きているのだ。
They have the power to supply your lacks, and add the value that you do not have.
- supply [səplái] : 「供給する、支給する、提供する、〜の代理を務める、代役をする」
- lack [lǽk] : 「不足、欠乏、欠如、欠落」
- add [ǽd] : 「加える、合計する、足す」
- value [vǽljuː] : 「価値、値打ち、真価、値段、対価、価格」
❖ "They have the power ~ "「偶像は、あなたの欠落を補填するパワーをもっている」。"and add the value ~ "「あなたのもっていない価値を付け加えてくれるのだ」。あなたに仕事の才がなくても心配する必要はない。地位さえ上がれば、みんながあなたを尊敬してくれる。特別な才能などなくてよい。世に先生と呼ばれる地位に就きさえすれば、みんながあなたを崇めてくれる。あなたは偶像の力を借りて、あなた自身が偶像になりきって生きていけばいいのだ。この幻想世界は、そういう世界なのである。しかし、決して長続きはしない。あなたは疲れ果て、偶像に裏切られ、悲惨さを味わうことになる。変化流動する幻想世界の理(ことわり)である。
No one believes in idols who has not enslaved himself to littleness and loss.
- enslave [ensléiv] : 「〜をとりこにする、奴隷にする」
- littleness [lítlnis] : 「小さいこと、卑小さ」
❖ "No one believes in idols ~ "「卑小さや欠落に対して自分自身を奴隷にしていない者は、誰も偶像を信じていない」。仏教的な言い方をすれば、『欲』を捨てた者、『欲』に対して自由な者は、偶像など信じない。偶像を信じないから、求めもしない。自分の心の平和を知った者は、外に何も求めないのだ。
And thus must seek beyond his little self for strength to raise his head, and stand apart from all the misery the world reflects.
- thus [ðʌ́s] : 「それ故に、従って、このようにして」
- seek [síːk] : 「捜し求める、捜し出す、求める、追求する」
- seek for : 「〜を探し求める」
- beyond [bijάnd] : 「〜の向こうに、〜を越えて、〜を過ぎて、〜のかなたに」
- strength [stréŋkθ] : 「力、強さ、体力、強み、長所」
- raise [réiz] : 「上げる、つり上げる」
- stand [stǽnd] : 「立っている、立ち上がる、立」
- apart from : 「〜から離れて、〜は別として、〜はさておき」
- misery [mízəri] : 「悲惨、不幸、苦痛、惨めさ、窮状、窮乏」
- reflect [riflékt] : 「〜を映す、示す、反映する」
❖ "And thus must seek ~ "「こうして彼は、彼のちっぽけな自己を飛び越えて、頭を高く持ち上げる力を求めるに違いない」。"to raise his head"「頭を高く持ち上げる」とは、幻想世界から超絶するということ。世俗の常識的な判断から解放されるということ。"and stand apart from ~ "「そして、世界が映し出すあらゆる悲惨さから離れて、立ち上がるのである」。
This is the penalty for looking not within for certainty and quiet calm that liberates you from the world, and lets you stand apart, in quiet and in peace.
- penalty [pénəlti] : 「刑罰、処罰、違約金、罰金、罰」
- within [wiðín] : 「内部で、内側は」
- certainty [sə́ːrtnti] : 「確信、確実なこと、必然」
- quiet [kwáiət] : 「静かな、静粛な」
- calm [kάːm] : 「静けさ、冷静、落ち着き、平穏」
- liberate [líbərèit] : 「〜を自由にする、解放する、釈放する」
- quiet [kwáiət] : 「静けさ、静寂、静穏、平穏」
❖ "This is the penalty ~ "「世界が映し出す悲惨さとは、〜を求めて、心の内を探さなかった報いなのだ」。"for certainty and quiet ~ "「静けさと平和の中で、あなたをこの世界から解放し、あなたを世界から離れて立ち上がらせてくれる確実性と静かな平穏さを求めて、」心の内を探さなかった報いが、世界があなたに与える悲惨さなのだ。あなたが外に求めれば、悲惨さしか得られない。あなたが内に求めれば、心の確信と静けさと平和が得られる。あなたがどっちを選択するか、それはあなたの自由意思に任せられているのだ。ACIMは、決して強制しない。