5. If the way to counteract fear is to reduce the importance of the mind, how can this build ego strength?
- counteract [kàuntərǽkt] : 「〜に対抗する、妨げる」
- fear [fíər] : 「恐れ、恐怖」
- reduce [ridjúːs] : 「減らす、減じる」
- importance [impɔ́ːrtəns] : 「重要性、重大さ」
- build [bíld] : 「作る、形成する」
- build A B : 「AにBを作ってやる」
- strength [stréŋkθ] : 「力、強さ、体力」
❖ "If the way to ~ "「もし、恐れに対抗する方法が、心の重要性を軽減することだとすれば、」"how can this ~ "「どうして、このことがエゴに力を与えることになるのだろうか」。いや、エゴに力を与えることにはならない。恐れは心の問題だから、心の重要性は増すことはあれ、減ることはないと考えがちだが、そうではない。ここを、サイコセラピストは誤解している。この矛盾に気が付いていない。そこで、ここの"the importance of the mind(心の重要性)"を『心の責任重大性』と解釈してやれば理解しやすいだろう。恐れに対して心は何の責任もない。たとえば、寝ている子供が恐ろしいモンスターの夢を見て怖がったとしよう。この子供の母親はどうやってその子の恐れを取り除くだろうか。母親はまず第一に子供を優しく目覚めさせるだろう。そして、怖いモンスターの夢を見ただけだと告げ、夢から目覚めた今はもうモンスターはいないと言って、子供を安心させるだろう。子供は、モンスターは夢なのだから怖がるに足らないと悟る。恐怖心は消える。これが、恐れを消し去る正しい方法である。心の中にモンスターは実在しておらず、恐れもまた、眠った心が誤って知覚した錯覚に過ぎない。目覚めた心にとってはモンスターも恐れはもまったく重要ではない。また、怖い夢を見た責任を心がとる必要もない。逆に、夢の中のモンスターや恐れにとって心は重要ではない。なぜなら、モンスターや恐れにとって、心はただ眠っていてくれさえすればいいのだから。
さて、サイコセラピストはこの子供に対してどうのような接し方をするだろうか。夢に出てきたモンスターは心の罪悪感のシンボルであり、モンスターというシンボルが心の中で生きているのだ、と告げるだろう。何か悪いことをした結果(罪を犯した結果)、恐ろしいモンスターに苦しめられるのだと宣言する。そう告げられた子供はモンスターを現実化し、同時に罪の意識も現実化する。こうして、恐れは深まることはあっても、決して消え去ることはない。その子は自分の心の中の恐れと戦い続けなくてはいけない。なぜなら、恐れは心が生み出した実在であり、心は責任をとって恐れと戦わねばならないからだ。したがって、恐れを本当に消し去るには、幻想の恐れと実相の心を同一レベルで連結させたのでは逆効果なのだ。恐れに対する心の重要性(責任性)を軽減させなければ(to reduce the importance of the mind)いけないのである。
Such evident inconsistencies account for why no one has really explained what happens in psychotherapy.
- evident [évidənt] : 「明白な、明らかな」
- inconsistency [ìnkənsístənsi] : 「不一致、矛盾」
- account [əkáunt] : 「説明する、釈明をする」
- account for : 「〜を説明する、〜を明らかにする」
- explain [ikspléin] : 「〜を説明する、明らかにする」
- happen [hǽpn] : 「起こる、発生する」
- psychotherapy [sàikouθérəpi] : 「心理療法」
❖ "Such evident ~ "「このような明白な矛盾は、サイコセラピーの現場で何が起きているか、誰も実際に説明しないことを明らかにしている」。恐れは心の問題なのだが、恐れと心をリンクさせて対処しようとすると恐れは増大するという明白な矛盾(evident inconsistencies)がある。サイコセラピーの現場においてさえ、誰も、何が起きているのか説明が出来ないでいる理由は、この明白な矛盾が物語っている。つまり、誰もこの矛盾を説明できないでいる。その原因は、恐れも、それを生み出している罪も心の中に実在すると考えているところにある。ありもしないものをあると信じているから、そこに生じる矛盾を説明できないのだ。
Nothing really does. Nothing real has happened to the unhealed healer, and he must learn from his own teaching.
- really [ríəli] : 「実際には、ほんとうは」
- unhealed : 「治癒していない、未治癒の」
- learn [lə́ːrn] : 「〜を学ぶ、習う」
❖ "Nothing really ~ "「実際、何も起きていない」。"Nothing real has ~ "「癒されていないヒーラーには、現実的なことは何も起きていない」。"and he must ~ "「そして、彼は、彼自身の教えから学ばなくてはならない」。サイコセラピストという、癒されていないヒーラーにとって、恐れを取り除くことがヒーリングの目的なのにも関わらず、ヒーリングという現実的なことは何も起きていない。恐れが現実化し、増大しただけだ。本当なら、悪夢を見た者とサイコセラピストが同時に夢から覚醒し、恐れは幻想に過ぎず単なる錯覚であるという認識を分かち合わなくてはいけないはずなのだ。なぜなら、この世の存在は自他一如であって、悪夢を見た者の心とサイコセラピストの心は同一なのだから。サイコセラピストが教えるサイコセラピーの原理をもっと良く学ぶ必要がある。
His ego will always seek to get something from the situation.
- always [ɔ́ːlweiz] : 「いつも、常に」
- seek [síːk] : 「捜し求める、追求する」
- seek to do : 「〜しようとする」
- situation [sìtʃuéiʃən] : 「状況、状態、立場」
❖ "His ego will ~ "「癒されていないヒーラーのエゴはいつも、状況から何かを得ようとする」。攻撃対象はないか、憎悪する対象はないか、奪えるものはないかと、エゴはどんな状況下でもその種を捜している。癒されていないヒーラーはエゴの思考システムの影響下にあり、ヒーラー自身も攻撃対象を、奪い得る対象を求めている。だから、恐れに対抗する方法として、恐れを攻撃し、撃退せよ、そのための強靭な精神力を身に付けよ、心を鍛えよ、と教えてしまうのだ。夢の中のモンスターと戦えと言う。
The unhealed healer therefore does not know how to give, and consequently cannot share.
- consequently [kɑ́nsəkwèntli] : 「その結果として」
- share in : 「〜を分かち合う、〜を共有する」
❖ "The unhealed healer ~ "「したがって、癒されていないヒーラーは、与え方を知らない」。"and consequently ~ "「したがって、分かち合うことが出来ないのだ」。幻想の中で攻撃することは教えるが、幻想から目覚める方法を与えることは出来ない。したがって、共に目覚めて真実の世界を分かち合うことも出来ない。
He cannot correct because he is not working correctively.
- correct [kərékt] : 「〜を修正する、正す」
- correctively [correctivelyli] : 「正すように、矯正的に」
❖ "He cannot correct ~ "「彼は修正することは出来ない」。"because he is ~ "「なぜなら、彼は修正するつもりで働いていないからだ」。癒されていないヒーラーは、悪夢を見た者の恐れを修正できない。修正しよう、恐れを取り除こうと思って仕事をしているのではないからだ。もちろん、自分自身も修正が必要であると思ってもみない。
He believes that it is up to him to teach the patient what is real, although he does not know it himself.
- up to : 「〜次第で」
- patient [péiʃənt] : 「病人、患者」
❖ "He believes that ~ "「彼は、患者に何が現実なのか教えるのは自分の役目だと信じている」。"although he does ~ "「彼自身、何が現実なのか知らないにも関わらず」。恐れを生み出しているのは心の中の罪悪感だと教え、それが現実なのだと信じているが、実は、幻想の中で恐れを感じているに過ぎないという事実は知らない。
6. What, then, should happen? When God said, "Let there be light," there was light.
- should [ʃúd] : 「〜すべきである、〜しなくてはならない」
- happen [hǽpn] : 「起こる、発生する」
❖ "What, then, should ~ "「では、いったい何が起きるべきなのか」。"When God said ~ "「神が『光よ、あれ』と言ったとき、光があった」。"Let there be light"は創世記1:3に出てくる文章である。参考までに載せておく。
[Genesis 1:1~1:5 from King James Bible]
In the beginning God created the heaven and the earth. And the earth was without form, and void; and darkness was upon the face of the deep. And the Spirit of God moved upon the face of the waters. And God said, Let there be light: and there was light. And God saw the light, that it was good: and God divided the light from the darkness. And God called the light Day, and the darkness he called Night. And the evening and the morning were the first day.
初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。(新共同訳)
Can you find light by analyzing darkness, as the psychotherapist does, or like the theologian, by acknowledging darkness in yourself and looking for a distant light to remove it?
- analyze [ǽnəlàiz] : 「分析する、解析する」
- psychotherapist [sàikouθérəpist] : 「サイコセラピスト、心理療法師」
- theologian [θìːəlóudʒiən] : 「神学者」
- acknowledge [əknɑ́lidʒ] : 「認める、受け入れる」
- darkness [dɑ́ːrknəs] : 「暗がり、暗闇」
- look for : 「〜を探す」
- distant [dístənt] : 「遠い、ぼんやりした、かすかな」
- remove [rimúːv] : 「取り除く、除去する」
❖ "Can you find ~ "「サイコセラピストがするように、暗闇を分析することで、あるいは、神学者のように、あなたの中に暗闇を認め、その暗闇を取り除くためのかすかな光を捜し求めることによって、あなたは光を見出すことが出来るだろうか」。いや、出来まい。サイコセラピストや神学者のような方法では、光は見出せない。もちろん、ここで言う光は、神が創造した光である。
Healing is not mysterious. Nothing will change unless it is understood, since light is understanding.
- mysterious [mistíəriəs] : 「神秘的な、秘密の、不可解な」
- understood [ʌ̀ndərstúd] : 「understand の過去・過去分詞形」
- understand [ʌ̀ndərstǽnd] : 「理解する、納得する、分かる」
- understanding [ʌ̀ndərstǽndiŋ] : 「理解、理解力、知力」
❖ "Healing is not ~ "「ヒーリングは神秘ではない」。"Nothing will change ~ "「ヒーリングが理解されなければ、何一つ変わらないだろう」。"since light is ~ "「なぜなら、光とは理解そのものだからだ」。ヒーリングは神秘的なものではなく、理解されなくてはならないものだ。光は理解であり、理解はヒーリングに結びつく。そして、光は真実を照らし出すものだ。では、ヒーリングは真実を知ることだと理解されなくてはならない。人は真実を知ることで癒されるのである。サイコセラピストのように暗闇を分析することも、神学者のように暗闇を受け入れることも、共に真実に近づく方法ではない。暗闇が幻想に過ぎないこと、心が夢の中で暗闇を演出していること、幻想と夢から目覚めれば暗闇は嘘のように消えること、そういう真実を叡知をもって知ることがヒーリングなのだ。光が闇を消す。つまり、光は理解そのものである。
A "miserable sinner" cannot be healed without magic, nor can an "unimportant mind" esteem itself without magic.
- miserable [mízərəbl] : 「惨めな、悲惨な、哀れな」
- sinner [sínər] : 「罪人、罪を犯した人」
- magic [mǽdʒik] : 「魔法、魔術、呪術」
- unimportant : 「重要でない、ささいな」
- esteem [istíːm] : 「〜を尊重する、重んじる、尊敬する」
❖ "A "miserable sinner" cannot ~ "「『哀れな罪人』は魔術なしに癒されることは可能ではないし、」"nor can an ~ "「『取るに足らない心』は魔術なしで自らを尊重することは出来ない」。"magic(魔術)"は"miracle(奇跡)"ではない。魔術はごまかしであり、真実から目を背けさせるまやかしだ。その魔術によって、あたかも罪の意識も心の苦しみも消えてしまったかのように見せかける。しかし、それは一時的な麻痺であって、ペンキはすぐに剥がれ落ちる。そこで再び魔術に依存する。これをアディクション(addiction)と呼ばずに何と呼ぼう。ところで、"miserable sinner(哀れな罪人)"は神学者、"unimportant mind(取るに足らない心)"はサイコセラピストを象徴していることは言うまでもない。