●  "A Course in Miracles (ACIM)""Text" (1975年版) の英語原文を、単に翻訳するだけでなく、精読、精解していくワークショップです。
●  Title に、たとえば T-26.IV.4:7 とありましたら、これは "Text" の Chapter 26、Section IV、Paragraph 4、Sentence 7 という場所を示しています。
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T-3.I.1:1 ~ T-3.I.1:9

Text - Chapter 3



The Innocent Perception
罪なき知覚



I. Atonement without Sacrifice
犠牲を伴わない贖罪



1. A further point must be perfectly clear before any residual fear still associated with miracles can disappear. 
  • further [fə́ːrðər] : 「さらにまた、さらになお、さらに深く」
  • point [pɔ́int] : 「要点、核心、真意、効用、利益」
  • perfectly [pə́ːrfiktli] : 「完全に、完璧に、すっかり、全く」
  • clear [klíər] : 「澄んだ、きれいな、汚れていない、明快な」
  • residual [rizídʒuəl] : 「残りの、残余の、剰余の」
  • fear [fíər] : 「恐れ、恐怖、懸念、心配、不安」
  • associate [əsóuʃièit] with : 「〜と付き合う、〜を連想する」
  • disappear [dìsəpíər] : 「存在しなくなる、なくなる、消滅する」
❖ "A further point ~ "「〜の前に、さらなる点を完全に明らかにしなくてはならない」。"before any residual ~ "「いまだに奇跡に関して抱く恐れの残りが消滅してしまう前に」。恐れを消滅させるにはもう一点を明確にしなければならない。ここでの"associated"は過去分詞で、形容詞と同じ働きをする。意味は受動的となる。



The crucifixion did not establish the Atonement; the resurrection did.
  • crucifixion [kuːsəfíkʃən] : 「はりつけ、キリストの十字架、磔刑」
  • establish [istǽbliʃ] : 「確立する、制定する、成立させる」
  • atonement [ətóunmənt] : 「償い、贖罪」
  • resurrection [rèzərékʃən] : 「生き返り、よみがえり、蘇生、復活」
❖ "The crucifixion ~ "「キリストの磔刑が贖罪を確立したのではなく、復活が贖罪を確立したのだ」。キリスト教徒(あるいはパウロ信奉者)が一般に信じていることとは大分異なる思想である。前段落で、贖罪は命のヒーリングであると述べられている。イエスの磔刑による死が神の子の命を救うのではなく、イエスが復活したことが命の永遠性を示しているのだ。
ところで、キリスト教徒の多くは、イエスの肉体自体が復活したと信じており、イエスが霊的な存在として、つまり、肉体を離れて、霊的に復活したとは信じていない。個人の信仰に異を唱えるつもりはないが、ACIMの基本理念は、肉体は幻想である、ということだ。それを踏まえれば、イエスがわざわざ幻想に過ぎない肉体を再びまとって生き返るとは考えにくい。



Many sincere Christians have misunderstood this. No one who is free of the belief in scarcity could possibly make this mistake.
  • sincere [sinsíər] : 「誠実な、正直な」
  • Christian [krístʃən] : 「キリスト教徒」
  • misunderstood : 「misunderstand の過去・過去分詞形」
  • misunderstand [mìsʌ̀ndərstǽnd] : 「誤解する、取り違える」
  • be free of : 「(負担などが)ない、(税金などを)免除されている」
  • belief [bilíːf] : 「信じること、信念、信仰、信条、信用、信頼」
  • scarcity [skέərsəti] : 「不足、欠乏」
  • possibly [pɑ́səbli] : 「もしかすると、場合により、たぶん、あるいは」
  • mistake [mistéik] : 「ミス、誤り、過ち、思い違い、誤解」
❖ "Many sincere Christians ~ "「多くの敬虔なキリスト教徒はこのことを誤解してきた」。"No one who is free ~ " 非常に解釈に苦しむ箇所である。直訳すると「不足を信じることのない者は誰でも、たぶんこのような誤解をしないであろう」。この不足(scarcity)とは何か? 金銭や食べ物の不足ではあるまい。精神的な欠如感、愛の欠如感、そういったものととらえるべきだろう。簡単に言えば、自分は神に愛されていない、という愛の不足感である。すると、本文は「神を愛し、神に愛されることで満足している者は、キリストの磔刑を誤解しないであろう」という意味合いになる。この文章の対偶(たいぐう)をとってみよう、「キリストの磔刑を誤解する者は、神の愛を信じきれない者たちであろう」となる。



If the crucifixion is seen from an upside-down point of view, it does appear as if God permitted and even encouraged one of His Sons to suffer because he was good.
  • upside down : 「逆さまに」
  • point of view : 「考え方、観点、視点、主張」
  • appear [əpíərəns] : 「〜のように見える、〜と思われる」
  • as if : 「あたかも〜かのように、〜のように、まるで〜かのように」
  • permit [pərmít] : 「許可する、許す、認める、容認する」
  • encourage [enkə́ːridʒ] : 「〜するように勧める、奨励する」
  • suffer [sʌ́fər] : 「苦しむ、苦労する、頭を悩ます」
❖ "If the crucifixion ~ "「もしも、磔刑を上下逆転の視点から見れば」"it does appear as if ~ "「まるで〜のように見える」。"as if God permitted ~ "「まるで神が、良き人間であるがためにその独り子が苦しむことを許し、それを奨励したかのようにさえ」見える。これが、一般的なイエスの磔刑の考え方であって、上下逆転の視点で捉えられたものだ。ACIMはそんな見方を批判する。



This particularly unfortunate interpretation, which arose out of projection, has led many people to be bitterly afraid of God.  Such anti-religious concepts enter into many religions.
  • particularly [pərtíkjələrli] : 「 特に、特別に、とりわけ、殊に」
  • unfortunate [ʌ̀nfɔ́ːrtʃənət] : 「不運な、不幸な、運の悪い、残念な」
  • interpretation [intə̀ːrprətéiʃən] : 「解釈、説明、解説」
  • arose [əróuz] : 「arise の過去形」
  • arise [əráiz] : 「起こる、生じる、現れる、生まれる、発生する」
  • projection [prədʒékʃən] : 「投影、射影、投射、映写」
  • led [léd] : 「lead の過去・過去分詞形」
  • lead [líːd] : 「〜を導く、案内する、連れて行く」
  • bitterly [bítərli] : 「激しく、苦々しく、ひどく」
  • afraid [əfréid] : 「恐れて、心配して、怖がって」
  • be afraid of : 「〜を恐れる、〜を怖がる」
  • anti-religious [æntai-rilídʒəs] : 「反宗教的な」
  • concept [kɑ́nsept] : 「概念、観念、コンセプト」
  • enter [éntər] : 「〜に入る、〜に参加する」
  • religion [rilídʒən] : 「 宗教、宗派、信条、信仰」
❖ "This particularly ~ "「このとりわけ不幸な解釈は、投影から生じたのであるが、多くの人々を、神をひどく恐れるようにしてしまった」。"Such anti-religious ~ "「そのような宗教に反する概念が多くの宗教に入り込んでいる」。"which arose out of projection"の部分であるが、我々は無意識の奥底に罪の意識を隠し持っている。それは神から分離してしまったことに対する罪の意識である。そして、罪の故に、いつかは神から罰せられるに違いないと無意識は恐れている。その無意識が外部に投影されたものが、この不幸な解釈につながっている、と言っている。簡単に言えば、神の子の犯した罪に対して、誰かをスケープゴート(犠牲)として神に捧げない限り、罪深い人間は神の罰から逃れることは出来ないという考えである。



Yet the real Christian should pause and ask, "How could this be?" Is it likely that God Himself would be capable of the kind of thinking which His Own words have clearly stated is unworthy of His Son?
  • real [ríəl] : 「実在する、現実の、実際の、本物の」
  • pause [pɔ́ːz] : 「中止する、ためらう、休止する、ちょっと止まる」
  • likely [láikli] : 「〜しそうである、起こり得る」
  • be capable of : 「〜の能力がある、〜の才能がある、〜が出来る」
  • kind of : 「〜のような種類の」
  • thinking [θíŋkiŋ] : 「考え、考えること、思考」
  • clearly [klíərli] : 「はっきりと、明らかに、明瞭に、疑いもなく」
  • state [stéit] : 「述べる、はっきり言う、提示する」
  • unworthy [ʌnwə́ːrði] : 「値しない、価値のない、取るに足りない 」
  • be unworthy of :「〜足りない、〜に値しない」
❖ "Yet the real ~ "「しかし、真のキリスト教徒はここで立ち止まって疑問を発しなくてはならない」"How could this ~ "「どうしてこんなことがあり得るのだろう?」。"Is it likely ~ "「that以下はあり得るだろうか?」"that God Himself ~ "「神自身は、〜のような考えがはたして出来るだろうか」。"which His Own ~ "「神自らの言葉で、神の子として価値がないとはっきり述べた」考え。つまり、神が自身の口で、お前は神の子にふさわしくないとはっきり明言するような考えを神はもち得るだろうか、という意味。ここの関係代名詞の使い方であるが、もともと"the kind of thinking which is unworthy of His Son"であったところに、"His Own words have clearly stated"が挿入されたものである。たとえば、"the bag which I think is hers"「彼女のものと思われるバッグ」と同じ構造。文法はともかく、簡単に言えば、神の子の罪と罰を帳消しにするために、神が愛するイエスを磔刑によって犠牲にするなどと、神自身が考えて宣言することなどあり得ようか、という意味合い。
余談になるが、マルコによる福音書15章34節に、磔刑上のイエスがアラム語で『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ (わが神、わが神、どうして、私をお見捨てになったのですか)』と訴えるくだりがあるが、この言葉は旧約聖書の詩編22からの引用である。あたかも、磔刑の苦しみから救ってくれない神をイエスがなじっているような響きであるが、明らかに、マルコ(とおぼしき人物)の想像であり、詩編からの引用である。イエスの最期の祈りだという説もあるが、そうであるなら、これほど重要な祈りに関するエピソードがなぜマルコの福音書だけに書かれているのだろう? マタイとルカの福音書がマルコの福音書を下敷きにして書かれたというのに。
神はイエスの磔刑と無関係であり、イエスもそれを知っていた。神は幻想と一切の関わりをもたない。この幻想世界の諸現象とまったく関わりをもたない。イエスの磔刑に神の意図が関係する可能性は一切ないのだ。イエスは、肉体の死を厭わない永遠の命を知っていたからだ。
さらに余談になるが、イエスの磔刑はローマ軍への反逆罪としての処罰である。反逆罪の場合、直径1~2センチもありそうな太いタガネのような釘をもって、踝(くるぶし)の下、そして、腕の尺骨(しゃこつ)と橈骨(とうこつ)の間に打ち付け(あるいは、腕を横木に被せるように後ろに回し、手のひらに釘を打ち付け)、十字架に張り付ける。多くは、これによって失血死する。失血を促すために、足の骨を砕くこともある。そして、失血死を確認するために、腹に槍を刺す。イエスは磔刑上で6時間後に絶命した。さて、磔刑の前に激しくむち打たれて肋骨を折り、十字架上で失血死寸前の磔刑者イエスが、『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ 』と、磔刑を遠巻きに見守る民衆に聞きとれるような大声で叫ぶことなど不可能なのだ。小声でつぶやいたとしても、民衆には聞こえまい。
信仰のレベルで聖書を信じることに異を唱えるつもりは毛頭ないが、聖書のもつ物語性を頭の片隅に置いておかない限り、狂信的な原理主義者になってしまう可能性は排除出来ないだろう。だからこそ、イエスはこのACIMの中で、再三、聖書に書かれたことの再解釈を促しているのだ。

 
 
 


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