A Course in Miracles
Text - Chapter 26
The Transition
転移
I. The "Sacrifice" of Oneness
単一性の『犠牲』
1. In the "dynamics" of attack is sacrifice a key idea. It is the pivot upon which all compromise, all desperate attempts to strike a bargain, and all conflicts achieve a seeming balance.
- dynamics [dainǽmiks] : 「力学、原動力、動力学」
- attack [ətǽk] : 「攻撃、暴行、襲撃」
- sacrifice [sǽkrəfàis] : 「犠牲、いけにえ、人身御供」
- pivot [pívət] : 「中心、軸、ピボット、旋回軸、かなめ」
- compromise [kɑ́mprəmàiz] : 「譲歩、妥協、歩み寄り、和解」
- desperate [déspərət] : 「絶望的な、自暴自棄の、やけくそになった、必死の」
- attempt [ətémpt] : 「試み、企て」
- strike [stráik] : 「取り決める、締結する」
- bargain [bάːrɡən] : 「駆け引き、取引、契約」
- strike a bargain : 「取引をする、商談を取り決める、妥協して合意する」
- conflict [kɑ́nflikt] : 「軋轢、摩擦、葛藤、争い、紛争、闘争」
- achieve [ətʃíːv] : 「成し遂げる、達成する、成就する」
- seeming [síːmiŋ] : 「外観上の、外見だけの、見せかけの」
- balance [bǽləns] : 「バランス、釣り合い、均衡、平衡、平衡性、調和」
❖ "In the "dynamics" of ~ "「攻撃の『力学』においては、犠牲という考えがキーになっている」。攻撃という行為の力関係を見れば、そこには、犠牲にしたい、あるいは、犠牲にされたくない、という、犠牲にまつわる拮抗する思いが、攻撃の力関係の中心に存在する。"It is the pivot upon which ~ "「犠牲は、〜という要(かなめ)になっている」。"upon which all compromise ~ "「あらゆる妥協、取引をしようという必死の試み、そして、あらゆるコンフリクトが、表面的なバランスを保とうとする」要(かなめ)になっている。つまり、いろいろな妥協や、取引や、ぶつかり合いの中心(pivot)には、犠牲にしよう、犠牲になりたくない、という思いが存在する、ということ。犠牲(sacrifice)をめぐって、妥協や取引や争いが起きているということ。犠牲にしようと思う者と、犠牲にされまいと思う者の力関係が、見かけ上のバランス(seeming balance)を保って、攻撃の『力学』(dynamics of attack)を動かしているのだ。
It is the symbol of the central theme that somebody must lose.
- symbol [símbl] : 「象徴、記号、シンボル、表象、符号」
- central [séntrəl] : 「中心の、主要な、重要な、中心性の」
- theme [θíːm] : 「話題、論題、主題、テーマ」
- lose [lúːz] : 「負ける、損害を受ける、損をする」
❖ "It is the symbol of ~ "「犠牲が、誰かが失うという中心テーマの象徴になっている」。この世界の事象の中心になっている出来事は、誰かが得をし、誰かが損をするという、つまり、奪うか失うかの出来事である。弱肉強食の世界と言われる所以(ゆえん)である。その弱肉強食の世界の象徴とも言えるものが、犠牲という考えである。隙があらば他者を犠牲にしてもよく、犠牲にならないために隙をつくらない、そういう基本思想が弱肉強食の世界を覆っている。この幻想世界は、犠牲をシンボルにした世界なのだ。もちろん、犠牲という考えの根底には、自分と他者は異なった存在であるとする分離の考えがある。したがって、この世界は犠牲をシンボルとした世界であると同時に、さらに根底では、分離を象徴する世界でもあるのだ。
Its focus on the body is apparent, for it is always an attempt to limit loss.
- focus [fóukəs] : 「焦点、中心、的」
- apparent [əpǽrənt] : 「明らかな、明白な、はっきり見える」
- always [ɔ́ːlweiz] : 「いつも、日夜、以前からずっと、常にいつでも」
- limit [límit] : 「限定する、制限する、制限をかける」
- loss [lɔ́s] : 「失うこと、紛失、損失、喪失」
❖ "Its focus on the body ~ "「犠牲が肉体に焦点を当てていることは明白である」。"for it is always ~ "「なぜなら、損失を何とか抑えようとする試みが、犠牲の常であるからだ」。この文章における"body"「肉体」は、「物質」と捉えてもいい。物質的損失をいかに抑えるか、物質的利益をいかに増大させるか、それが、この世界で常に考えられていることであるからだ。同時に、肉体がダメージを受けないようにすること、肉体をなるべく長く維持すること、これに勝る関心事はこの世にない。
The body is itself a sacrifice; a giving up of power in the name of saving just a little for yourself.
- sacrifice [sǽkrəfàis] : 「犠牲、いけにえ、人身御供」
- giving up : 「断念、諦めること」
- in the name of : 「〜の名において」
- save [séiv] : 「確保しておく、取っておく、残しておく」
- just a little : 「ほんのちょっぴり、ほんの少し」
❖ "The body is itself ~ "「肉体は、それ自体、犠牲である」。"a giving up of power ~ "「なぜなら、あなた自身のために、ほんのわずかなものを確保しておくという名目で、(肉体の)パワーを諦めているからだ」。肉体は、物質の中に閉じこめられている。しかし、その幻想の物質的肉体を超越して、肉体を実相の心と共鳴、調和させれば、肉体と心は奇跡を起こすパワーを持つことが出来るのだ。しかし、現実には、ほんのわずかの物質を得るために、肉体は物質性の中に閉じこめられ、本来もっているパワーが犠牲にされているのである。
To see a brother in another body, separate from yours, is the expression of a wish to see a little part of him and sacrifice the rest.
- separate [sépərət] : 「分かれた、離れた、個々の、別個の」
- expression [ikspréʃən] : 「表現、言い方、表出」
- part [pάːrt] : 「一部、部分、部品」
- sacrifice [sǽkrəfàis] : 「〜を犠牲にする、〜をいけにえにする」
- rest [rést] : 「残り、残っているもの、残りの部分」
❖ "To see a brother ~ "「同胞を、あなたの肉体と分離した、別の肉体をもった者と見ることは、」"is the expression of ~ "「同胞のほんの小さな部分は見るものの、残りは犠牲にするような見方をしたいと望んでいることを表しているのだ」。同胞の、表面的な肉体部分は、彼のほんの一部に過ぎないのだ。その一部に過ぎない肉体を見るだけで、他の隠された真実の部分、つまり、心の実存を無視しすることは、同胞の真実の実存を犠牲にすることである。
Look at the world, and you will see nothing attached to anything beyond itself.
- attach [ətǽtʃ] : 「〜を取り付ける、貼り付ける、所属させる」
- attached to : 「〜に付属している、〜に接続されている、〜に付随する」
- beyond [bijάnd] : 「〜を越えて、〜を過ぎて、〜の域を越えて、〜を超越して」
❖ "Look at the world"「この世界を見てみなさい」。"and you will see ~ "「そうすれば、それ自体を越えた何かに付属しているものが何もないと分かるだろう」。物が、ばらばらに独立して存在しているかに見える、ということ。何のつながりも結びつきもなく、それ自体を超越した何物かに連結しているのが見えてこないのだ。
All seeming entities can come a little nearer, or go a little farther off, but cannot join.
- seeming [síːmiŋ] : 「外観上の、外見だけの、見せかけの、うわべの」
- entity [éntəti] : 「実在するもの、存在物、実在物、本質、実体」
- come near [níər] : 「匹敵する、近似する、近づく、接近する」
- farther [fάːrðər] : 「もっと遠くへ、もっと先に」
- join [dʒɔ́in] : 「交わる、一緒になる、加わる」
❖ "All seeming entities ~ "「あらゆる外面的な存在体が、ちょっと近づいたり、少し離れたりは出来ても、決して結合することは出来ない」。幻想世界は分離の世界であって、存在体が個々別々に、分離独立して存在していかに見えるのだ。対して、実相世界では、すべてが結合し融合し、単一体として調和共鳴している。多即一の世界なのである。
2. The world you see is based on "sacrifice" of oneness. It is a picture of complete disunity and total lack of joining.
- base [béis] : 「〜の基礎を形成する、〜の基礎を…に置く」
- be based on : 「〜に基づいている」
- sacrifice [sǽkrəfàis] : 「犠牲、いけにえ、人身御供」
- oneness [wʌ́nnis] : 「単一性、同一性、統一性、調和」
- picture [píktʃər] : 「絵、像、絵画、光景、実態、事実、状況」
- complete [kəmplíːt] : 「完結した、完成した、全部そろった、完全な」
- disunity [disjúːnəti] : 「不統一、不一致、分裂、不和」
- total [tóutl] : 「完全な、全くの、全部の、すべての、全体の、全面的な」
- lack [lǽk] : 「不足、欠乏、欠如、欠落」
- joining : 「連結、接合、結合」
❖ "The world you see ~ "「あなたの目にする世界は、単一性の『犠牲』の上に成り立っている」。実相世界の多即一が犠牲にされ、分離した個別存在して多即多の世界が形作られている。それは、真実の姿ではなく、したがって、幻想世界なのだ。"It is a picture of ~ "「この世界は、完璧な不統一、完全な不結合を描いている」。これが二元論世界である。たとえば、純粋な愛は、愛と憎悪に分裂し、喜びも、喜びと悲しみに分裂し、善悪、好悪、陰陽、光と影、等々というように、あらゆるものが分離分裂して存在する世界なのだ。
Around each entity is built a wall so seeming solid that it looks as if what is inside can never reach without, and what is out can never reach and join with what is locked away within the wall.
- around [əráund] : 「〜の周りに、〜の周囲に」
- built [bílt] : 「build の過去形、過去分詞形」
- build [bíld] : 「建てる、建造する、構築する、形成する」
- wall [wɔ́ːl] : 「障壁、塀、壁」
- solid [sɑ́ləd] : 「硬い、頑丈な、固体の、揺るぎない」
- as if : 「あたかも〜かのように」
- inside [insáid] : 「内側に、中に」
- reach [ríːtʃ] : 「伸びる、向かう、及ぶ」
- without [wiðáut] : 「外、外部、外側」
- lock [lάk] : 「〜に錠を掛ける、〜を閉じ込める」
- lock away : 「しまい込む」
- within [wiðín] : 「〜の中に、〜の内側に」
❖ "Around each entity is ~ "「一つ一つの存在体の周りに、壁が築かれ、それが、表面的にあまりに固そうなので、」"that it looks as if what ~ "「あたかも、その存在体の中にあるものは、決して外に手を伸ばせないように見えるのだ」。"and what is out can ~ "「また、外にあるものは、壁の内側に閉じこめられたものに手を伸ばすことも、結合することも出来ないように見えるのである」。肉体という壁に隔てられ、外と内とが分離しているのだ。その幻想に捕らわれて、心も分離し断絶しているかに錯覚しているのである。結果、個別存在となり、孤絶化する。しかも、自分は他者とは違って特別だと信じ込むことになる。特別性に捕らわれて、ますます世界と分離分裂していく。そして、救われることなく、孤絶の中で死んでいくのである。それは、あまりにも悲しい。だから、ACIMの言うように、心からホーリー・スピリットに救いを求めるべきなのだ。求めれば与えられるのが真実であり、実相世界の正当性なのだから。
Each part must sacrifice the other part, to keep itself complete.
- part [pάːrt] : 「一部、部分、部品、パーツ」
- keep [kíːp] : 「〜の状態にしておく、保つ、〜にしておく」
- complete [kəmplíːt] : 「完結した、完成した、全部そろった、完全な」
❖ "Each part must ~ "「個々の部分は、他の部分を犠牲にしなければならない」。"to keep itself ~ "「それは、自分自身を完璧に保つためなのだ」。自立し自給し自足するために、他者の存在に依存することを拒否し、自分だけで自己完結しようとする。そのためには、自分の特別性を信仰し、他者の犠牲の上に自分を勝利者に仕立てあげなければならないのだ。この世界で勝利しようとする者は、分離と特別性を信仰し、孤立無援を受け入れて、一人、孤絶死を選ぶ者のことである。いったい、それに、いかほどの価値があるのだろうか。
For if they joined each one would lose its own identity, and by their separation are their selves maintained.
- join [dʒɔ́in] : 「〜に加わる、結び付ける、結合する、連結する」
- lose [lúːz] : 「〜を失う、見失う、喪失する、なくす」
- identity [aidéntəti] : 「自我同一性、同一性、固有性、正体、身元」
- separation [sèpəréiʃən] : 「分離、区別、別居、別離、離脱」
- selves [sélvz] : 「self の複数形、自分たち」
- maintain [meintéin] : 「〜を保持する、維持する、保つ」
❖ "For if they joined each ~ "「なぜならば、もし彼らが互いに結合していたなら、彼らの自己同一性が失われてしまうからである」。他者と結合し、同一体となってしまったなら、他者よりも優れた特別な存在であるという自分の存在価値を失ってしまう、つまり、自己同一性、自己独立性が失われてしまうのである。"and by their separation ~ "「そして、分離することで、彼ら自身の独自性が維持されるからなのである」。個性が尊重され、プライバシーや個人情報が守られるべきものとされるこの世の中にあって、ACIMの主張が易々と通用するとは思えない。激しい抵抗に遭うことは必至である。しかし、ACIMは、個性を否定し、プライバシーや個人情報の保護が偽りであるなどとは一言も言ってはいない。後生大事にしているそれらは分離した肉体にまつわるものであって、実は幻想なのだ、と言っているだけなのだ。それよりももっと大切な心があり、それこそが実在であって、その心は実相的に結合した単一体なのだと主張しているのである。その真実に目覚めよ、と願っているのである。