II. The Ego and False Autonomy
エゴと誤った自律
1. It is reasonable to ask how the mind could ever have made the ego. In fact, it is the best question you could ask.
- reasonable [ríːznəbl] : 「道理にかなった、妥当な」
- In fact : 「事実は、実は、内実は、実際に」
❖ "It is reasonable ~ "ここは"It ~ to do ~ "の構文、「心がかつてどのようにしてエゴを作ることが出来たか、問いを発してみるのは理にかなっている」。"In fact, it is ~ "「実際、質問する問題としては一番のものだ」。
There is, however, no point in giving an answer in terms of the past because the past does not matter, and history would not exist if the same errors were not being repeated in the present.
- point [pɔ́int] : 「目的、意味、意義、重点、重要」
- in terms of : 「〜に関して、〜の点から見て、〜の観点では」
- past [pǽst] : 「過去、昔、過去のこと」
- matter [mǽtər] : 「問題である、問題となる、重要である」
- history [hístəri] : 「歴史、過去のこと」
- exist [igzíst] : 「存在する、生きている、存続する」
- same [séim] : 「同じ、同一の、変わらない」
- error [érər] : 「誤り、間違い」
- repeat [ripíːt] : 「〜を繰り返す」
- present [préznt] : 「今、現在」
❖ "There is, however ~ "「しかし、過去に関して答えを与えることには意味がない」。過去にだけ目を向けて、評価判断を下すのは意味がない。"because the past ~ "「なぜなら、過去が問題なのではなく、」問題なのは過去ではなく今なのであり、"and history would ~ "仮定法過去、現在の事実に反することを仮定する、「もし、現在、同じ誤りが繰り返されていないのなら、歴史は存在しないであろうからだ」。現在に誤りという問題がなかったら、過去に問題をほじくり返す必要はなく、したがって歴史に存在意義はなくなる。誤解のないように言っておくが、歴史を学ぶこと自体を否定しているのではない。人類の歴史は誤りの歴史である。その誤りを正そうとするとき歴史が存在意義をもつ。もし、現在、その誤りがまったく繰り返されていないなら、歴史の存在意義はなくなる。エゴが今我々の心を支配していなかったら、心がどのようにしてエゴを作ったか、問うてみるのは意味がない。しかし、実際、今、エゴが我々の心をむしばんでいるので、歴史を学ぶようにエゴの起源を探っていくことは意義をもつ。
Abstract thought applies to knowledge because knowledge is completely impersonal, and examples are irrelevant to its understanding.
- abstract [ǽbstrækt] : 「抽象的な、概念上の」
- abstract thought : 「抽象的思考」
- apply [əplái] : 「当てはまる、適用される」
- knowledge [nɑ́lidʒ] : 「知識、心得、認識、知恵」
- completely [kəmplíːtli] : 「完全に、十分に、全面的に」
- impersonal [impə́ːrsənl] : 「人格を持たない、非人格的な」
- example [igzǽmpl] : 「例、実例、用例」
- irrelevant [iréləvənt] : 「見当違いの、無関係の、無意味な 」
- understanding [ʌ̀ndərstǽndiŋ] : 「理解、理解力、知力 」
"Abstract thought applies ~ "「抽象的思考は、叡智に適用される」。"because knowledge ~ "意訳する、「なぜなら、叡智は人間性に完全に無関係であり、(具体的な)事例は(かえって)理解の妨げになるからだ」。ここでは過去の誤りを学ぶときの、いわば心構えについて述べている。いつ、どこで、誰が、何をしたか、などという具体的な事例を詮索しても、誤りが生じた原因の真実は見えて来ない。具体的な事例の裏に潜む、より抽象的な、ある意味で非人格的な原理を探っていかなくてはならない。そこに真実の実体が存在し、それが叡智につながる。叡智とはこの世の処世術などではない。丸裸の真実の総体である。
Perception, however, is always specific, and therefore quite concrete.
- perception [pərsépʃən] : 「知覚、認知、知見、見識」
- specific [spisífik] : 「具体的な、詳しい、明確な」
- concrete [kɑ́nkriːt] : 「具体的な、明確な、現実の」
"Perception, however ~ "「しかし、知覚は常に固有のものに向けられ、したがって、極めて具体的である」。いつ、どこで、誰が、何をしたか、などという具体的な事例は、知覚がとらえた事象の経緯に過ぎない。知覚がとらえ、頭脳が判断を下すというやり方では、真実の叡智に到達することは出来ない。なぜなら、知覚がとらえたものが、はたして幻想でないと誰にも言えないからだ。
非常に難しい議論をしているように思えるだろうが、実はいたって単純なことを述べている。夜見る夢を想定してみればいい。あなたは、非常に具体的な、そして圧倒的にリアルな夢を見て、その中で誤りを犯したとしよう。あなたは夢の中で誤りを検証し、いつ、どこで、誰が、何をしたか、等々を考える。しかし、それに意味があるだろうか? 夢占いをしようと言うなら話しは別だが、夢は幻想なのだから、幻想を幻想のままで掘り下げても意味はないのだ。そうするのではなく、より抽象的に考察して、知覚が捉える夢は現実なのか、なぜ夢を見るのか、なぜ夢を実在だと信じてしまうのか、そこを掘り下げていった方がずっと実り豊かだ。なぜなら、背後に潜む真実に近づくことが出来、真実は叡智へとつながるからだ。
2. Everyone makes an ego or a self for himself, which is subject to enormous variation because of its instability.
- subject [sʌ́bdʒikt] : 「支配下にある、支配を受ける」
- subject to : 「〜に支配されて、〜に従属して」
- enormous [inɔ́ːrməs] : 「莫大な、非常に大きい、巨大な」
- variation [vὲəriéiʃən] : 「変化、変化量、変動、変異」
- instability [ìnstəbíləti] : 「不安定な性質、不安定度、変わりやすさ」
- ormous [inɔ́ːrməs] : 「莫大な、非常に大きい、巨大な、甚大な」
❖ "Everyone makes ~ "「誰でも自分のためにエゴ、あるいは、自分のための自己を作る」。"which is subject ~ "「そのエゴや自己は不安定なために、非常に大きな変化にさらされる」。ここから、我々の知覚がとらえる具体的な姿が語られる。いわゆる、夢の中の出来事である。神の子は神から分離した後、その罪と罰の恐れに耐えきれなくなって自己を解離し、エゴという別人格を作り出した。夢の中の劇を演じる主役を、エゴと名付けてでっち上げたのだ。しかし、夢は本質的に幻想に過ぎないので、変化流動して行く。エゴは、その変化流動にさらされ、生き残るために必死に夢の海を泳いで行くのだ。
He also makes an ego for everyone else he perceives, which is equally variable. Their interaction is a process that alters both, because they were not made by or with the unalterable.
- perceive [pərsíːv] : 「知覚する、〜に気付く、〜を見抜く」
- equally [íːkwəli] : 「同じように、同様に」
- variable [vέəriəbl] : 「変わりやすい、可変の 」
- interaction [intə̀ːrǽkʃən] : 「 相互作用、交互作用、相互の影響」
- process [prɑ́ːses] : 「一連の行為、経過、推移」
- alter [ɔ́ːltər] : 「変わる、様変わりする」
- unalterable [ʌ̀nɔ́ːltərəbl] : 「不変の」
"He also makes ~ "「また彼は、知覚する他のすべての者たちのエゴを作り出す」。夢の劇に登場する自分だけでなく、他の登場人物達のエゴも作り出す。神の子は神からの分離後、自らを分裂させて多数の自己を作り出し、それぞれを肉体の中に閉じ込めた。そして、たとえば自分を攻撃する者には敵という役割を振って夢の劇を演じさせる。自分の心の攻撃性を他者に投射して、他者のエゴをでっち上げているのだ。"which is ~ "「そのエゴも同様に変化しやすい」。所詮夢の中の他者なので、他者のエゴも変化にさらされる。"Their interaction is ~ "「これらのエゴ達の相互作用は、互いに互いを変えるというプロセスである」。あなたが彼のエゴを投射によってでっち上げ、彼はあなたのエゴを投射によってでっち上げる。夢の劇の中で、互いに役割を変えながらめちゃくちゃな悲劇、喜劇を生み出しているのだ。"because they ~ "「なぜならば、これらのエゴ達は不変なるものによって作られたのでもなければ、不変なものを使って作られたのでもないからだ」。つまり実体をもたない幻想によってでっち上げられたエゴなので、変化流動は必然である。不変なものとは、実在する真実であって、真実は永遠不変である。不変なるものの最たるものは神であり、スピリットも不変。エゴは我々の変化する心が生み出した夢に過ぎず、そのエゴの上に変化流動する幻想世界が展開する。
It is important to realize that this alteration can and does occur as readily when the interaction takes place in the mind as when it involves physical interaction.
- important [impɔ́ːrtənt] : 「重要な、重大な、大切な」
- realize [ríːəlàiz] : 「悟る、自覚する、実感する」
- alteration [ɔ̀ːltəréiʃən] : 「変更、改変、修正、変化」
- occur [əkə́ːr] : 「起こる、発生する、生じる、現れる」
- readily [rédili] : 「すぐに、早速、直ちに」
- take place : 「起こる、行われる」
- involve [invɑ́lv] : 「〜を含む、伴う、〜に伴って生じる」
- physical [fízikəl] : 「物質の、物質的な、身体の、肉体の」
"It is important ~ "「that以下を自覚することは大切である」。"that this alteration ~ "「この変化は起こり得るし、起こっている」。 "as readily when the interaction ~ "「エゴ同士の相互作用が肉体的な相互作用を含むときと同様、その相互作用が心の中で起きたときはすぐにでも」変化が起こり得るし、起きている。それを認識することは重要だ。この幻想世界は二元論の世界であり、一元論世界である実相世界の、たとえば純粋な愛は、愛と憎悪に分裂する。二つに分裂した概念は相反するベクトルとして互いにせめぎ合い、ダイナミックな変化流動を引き起こす。愛と憎悪は、時に肉体的相互作用を伴い、時に心理的相互作用を生み出す。たとえば、愛に満ちて肉体を交え、憎悪に満ちて殴り合い、愛に満ちて幸せを感じ、憎悪に満ちて敵意を燃やす。様々に変化するのである。しかも、その変化は流動し止まることを知らない。様々な相互作用を生み出しながら、愛と憎悪の間を行ったり来たりする。
There could be no better example that the ego is only an idea and not a fact.
- better [bétər] : 「より良い、より望ましい」
- example [igzǽmpl] : 「例、実例、用例」
- idea [aidíːə] : 「考え、着想、発想、思い付き」
- fact [fǽkt] : 「事実、現実、真実、実際、真相」
"There could be ~ "「エゴは単なる空想の産物であり、実体ではないという例え以上に良い例えはあるまい」。エゴの住まうこの世界は時空依存の世界であり、変化で成り立っている世界である。対して、神の住まう世界は時空を超越して、永遠にして不変である。分離分裂によって、この世の現実は変幻自在に形を変えていく。エゴが作り出す世界は、したがって空想の産物なのだ。幻想に過ぎないエゴが実相的現実を生み出すことは不可能である。