9. The appeal of hell lies only in the terrible attraction of guilt, which the ego holds out to those who place their faith in littleness.
- appeal [əpíːl] : 「懇願、魅力」
- hell [hél] : 「地獄、ひどい体験、生き地獄」
- lie [lái] : 「ある、存在する」
- terrible [térəbl] : 「極度の、極端な、恐ろしい、怖い」
- attraction [ətrǽk∫n] : 「引き付けるもの、引力、魅力、誘引」
- guilt [gílt] : 「犯罪、あやまち、有罪、罪」
- hold out : 「差し出す、提供する、提出する」
- place [pléis] : 「〜を置く、設置する」
- faith [féiθ] : 「 信頼、信用、信じること、信仰、信条」
- littleness [lítlnis] : 「小さいこと、卑小さ」
❖ "The appeal of hell lies ~ "「地獄に魅(ひ)かれる気持ちは、罪の意識に極度に引きつけられるところに存在するだけである」。くどい言い方をしているが、要するに、罪の意識が大きくなればなるほど、地獄を意識してしまう、ということ。罪と地獄は表裏一体の概念である。"which the ego holds ~ "「エゴはその罪の意識を、自分は卑小であると信じている者達に差し出しているのだ」。エゴは、神の子が神を裏切って神から分離したのだと、その罪を殊更に強調し、神の子に罪の意識を無理やりにでも抱かせるのである。自分は虫けらにも劣ると信じる卑小な者達は、エゴの差し出す罪の意識を信じきってしまうのだ。
The conviction of littleness lies in every special relationship, for only the deprived could value specialness. - conviction [kənvík∫n] : 「信念、確信」
- deprive [dipráiv] : 「奪う、取り上げる、剥奪する」
- deprived : 「貧しい、困窮した」
- value [vǽljuː] : 「〜を評価する、重視する、大事にする」
- specialness [spé∫lnis] : 「特別、特殊性」
❖ "The conviction of littleness ~ "「卑小さの確信は、すべての特別な関係性の中に存在する」。"for only the deprived ~ "「なぜなら、奪われた者だけが、特殊性を高く買うからだ」。神を裏切り、いずれは神から報復されるだろうと信じている卑小な者達は、卑小な者同士で特別な愛の関係性を築き、しばし夢のような空想の幸せを求める。特別な愛の関係性には、決まって、存在の卑小さの確信が匂ってくる。ところで、"the deprived"「奪われた者」とは、神の愛を奪われた者と解してもいいだろうし、神の子としての自信を奪われた者、エゴに心を奪われた者、あるいは単に、存在価値を奪われた者、と考えてもいいだろう。それが、つまり卑小な者のことだ。彼らは、その卑小さに適合するような特殊性に価値を置く。普遍的な愛など眼中にない。自分と愛人との小さな、しかし特殊な愛だけを求めるのである。
The demand for specialness, and the perception of the giving of specialness as an act of love, would make love hateful. - demand [dimǽnd] : 「要求、必要、要望、ねだり」
- perception [pə(r)sép∫n] : 「知覚、認知、知見、見識、感じ方」
- act [ǽkt] : 「行為、活動、言動」
- hateful [héitfl] : 「 憎らしい、不愉快な、憎しみに満ちた、憎い、憎むべき、忌まわしい」
❖ "The demand for ~ "「特殊性を要求すること、そして、特殊性を与えることを愛の行為だと知覚することは、愛を忌まわしいものに変えてしまう」。前段落にあったように、特別な関係性を求める愛は、愛を与えることではなく愛を奪うことに専念する。愛の名のもとにパートナーを支配し、隷属化しようとする。愛による自由や、解放は一切遠のいてしまう。支配の道具にされた愛は忌まわしいものになってしまうのだ。
The real purpose of the special relationship, in strict accordance with the ego's goals, is to destroy reality and substitute illusion. - real [ríː(ə)l] : 「現実の、実際の、実在する」
- purpose [pə́ː(r)pəs] : 「目的、意図、狙い、意向、趣旨、意味」
- strict [stríkt] : 「厳しい、厳格な、正確な、厳密な、精密な」
- accordance [əkɔ́ː(r)dns] : 「合致、一致、調和、与えること」
- in strict accordance with : 「〜にきっちり合わせて、〜に厳密に一致して」
- goal [góul] : 「目標、目的地、目的、目指すもの」
- destroy [distrɔ́i] : 「破壊する、崩壊させる」
- reality [ri(ː)ǽləti] : 「現実、真実、事実、実態、実相」
- substitute [sʌ́bstət(j)ùːt] : 「〜を代わりにする、代用する、置き換える、代入する」
❖ "The real purpose of ~ "「特別な関係性の実際の目的は、」"in strict accordance ~ "「エゴの目的に、正確に一致するのだが、」"is to destroy reality ~ "「実相を破壊し、幻想をその代わりにすることである」。支配し自由を奪う愛は、真実の愛を破壊する行為だ。特別な関係性の中に眠りこけることは、幻想世界の中に居座ることであり、決して実相世界に目覚める機会さえない。それはエゴの策略であり、エゴは安泰であるわけだ。なぜなら、実相世界に目覚めたら、幻想の特別な関係性は消滅し、同時に、幻想のエゴも消滅してしまうからだ。
For the ego is itself an illusion, and only illusions can be the witnesses to its "reality. "- witness [wítnəs] : 「目撃者、証人、参考人、証拠、証言」
❖ "For the ego is itself ~ "「なぜなら、エゴ自体が幻想であり、」"and only illusions can ~ "「幻想だけが、幻想の『現実性』の証人になり得るからだ」。難解な箇所であるが、具体的に考えよう。特殊な関係性を結んで、愛を奪ったり奪われたりする卑小な者達は、一方が他方を支配し、隷属化する。愛は忌まわしいものに変形され、自由への解放も遠のいてしまう。そのとき、愛と憎悪の渾然とした心理状態のままに、これが現実であり、これが真の人生なのだと深く諦めることになる。実は、そうささやくのはエゴだ。おまえが生きて生活しているすべてが現実であり、真実だ、それ以外の何もない、とエゴは証言する。しかし、それは誤りである。エゴが、現実であり真実としたものは、覚醒した正しい目で見れば、幻想である。では、幻想を真実と証言したエゴは真実か? いや、幻想を幻想だと証言する者が真実であるのだから、幻想を真実だと証言する存在自体が幻想である。かくして、エゴは幻想なのだ。「幻想だけが、幻想の『現実性』の証人になり得るから」エゴは幻想なのである。
10. If you perceived the special relationship as a triumph over God, would you want it? - perceive [pə(r)síːv] : 「知覚する、〜を理解する、〜を把握する」
- triumph [tráiəmf] : 「勝利、大成功、大業績」
❖ "If you perceived ~ "「もし、あなたが、特別な関係性を神に対する勝利だと知覚するなら、」"would you ~ "「あなたは、その勝利が欲しいだろうか」。つまり、あなたは神を打ち負かし、勝利したいのか。
Let us not think of its fearful nature, nor of the guilt it must entail, nor of the sadness and the loneliness. - think of : 「〜のことを考える」
- fearful [fíə(r)fl] : 「恐ろしい、怖い」
- nature [néit∫ə(r)] : 「自然、天然、性質、性分、天性、本性、本質」
- guilt [gílt] : 「犯罪、あやまち、有罪、罪」
- entail [entéil] : 「〜を伴う、必要とする、引き起こす」
- sadness [sǽdnəs] : 「悲しさ、悲しみ」
- loneliness [lóunlinəs] : 「孤独、寂しさ、独りぼっち」
❖ "Let us not think of its ~ "「特別な関係性の持っている恐ろしい性質、それが引き起こす罪の意識、悲しみ、孤独、そういったものに思いを馳せることはしないことにしよう」。特別な関係性自体が幻想なのだから、恐ろしさも罪も悲しみも孤独も、すべて幻想である。だから、幻想に思いを馳せることは止めるべきだ。簡単に言えば、あなたが夜見る夢で、悲しさや孤独、罪、恐怖を感じたとしよう。目が覚めてから、それをくどくど考えることがあるだろうか? なんだ、夢だったんだ、と思って捨ててしまうではないか。特別な関係性が引き起こす様々な感情も同様である。すべて、幻想、夢なのだから。
For these are only attributes of the whole religion of separation, and of the total context in which it is thought to occur. - attribute [ǽtribjùːt] : 「属性、特質、特性、性格」
- whole [hóul] : 「全部の、完全な、全体の、丸ごとの」
- religion [rilídʒ(ə)n] : 「宗教、宗派、信条、宗旨、信仰」
- separation [sèpəréi∫n] : 「分離、区別、別居、別離、離脱」
- total [tóutl] : 「全部の、すべての、全体の、全面的な、完全な、全くの」
- context [kɑ́ntekst] : 「文脈、状況、事情、背景」
- thought [θɔ́ːt] : 「think の過去・過去分詞形」
- occur [əkə́ː(r)] : 「起こる、発生する、生じる、現れる」
❖ "For these are only ~ "「なぜなら、これらの恐れや罪の意識や悲しみや孤独は、分離を信仰する心の属性に過ぎないのだから」。"and of the total context ~ "「そして、そんなことが起きたように思われただけの、背景の属性だから」。なんとも難解な部分である。ここの"separation"「分離」は、神からの分離を意味するのではなく、一元論の実相世界の"union"「結合」に対する言葉と捉えるべきだ。この幻想世界はすべて分離で構成されている。あなたと私は分離し、心と物が分離し、愛や思いも、様々な色彩に分離している。二元論世界の性(さが)である。したがって"the whole religion of separation"「分離を信仰するすべての宗教」とは、簡単に言えば、この幻想世界を信じていること、という意味合いになる。この幻想世界を信じていれば、その属性(attributes)として、つまり、必然的に、恐れや罪や悲哀、孤独を現実的に感じてしまうのだ、ということになる。しかし、実相世界から見れば、それは幻想であって、本当は起きていない。本人が、起きているように思っているだけだ(it is thought to occur)。起きてもいないことを幻想しているという状況にあるわけで、それが現象の背景(context)になっているのである。そういう背景がもつ属性として、つまり、幻想を夢で見ているとう背景がもつ属性として、恐れや罪や悲哀や孤独を見てしまいがちになるのだ。総括すれば、分離が象徴するこの幻想世界では、恐れや罪の意識、悲しみ、孤独、そういったものに嘖(さいな)まれるのは必然である、ということになる。ただし、それさえも幻想に過ぎないのだが。
The central theme in its litany to sacrifice is that God must die so you can live. - central [séntr(ə)l] : 「主要な、中心となる、中心性の、中枢性の」
- theme [θíːm] : 「主題、テーマ、話題、論題」
- litany [lít(ə)ni] : 「連祷、長談義」
- sacrifice [sǽkrəfàis] : 「犠牲、ささげものをすること、いけにえ」
- die [dái] : 「死ぬ、死亡する」
❖ "The central theme ~ "「何かを犠牲にするために唱えられる、この宗教(幻想世界)の長い祈祷の主なるテーマは、」"is that God must ~ "「あなたが生き抜くために、神は死ななくてはならないというものだ」。この幻想世界で生き抜くために、色々な思想、宗教、哲学が勃興し、幻想世界の必然として何を犠牲にして生きるべきかが長々と論じられてきた。そして頭脳的理性が勝利した現在、神などという曖昧なものを捨てることこそが生き抜く要諦であるとされた。科学を持ち出すまでもなく、様々な顔をした無神論は至る所にはびこっている。なぜか? そもそもこの幻想世界は、神の子が神から分離し、その罪の意識と神の罰を恐れる恐怖心に耐えきれずに、心の外側に投射して偽創造した世界である。神を排他して作り上げた世界なのだ。したがって、その世界で生きるには、あるいはその世界を維持するには、神という存在が一番邪魔なのである。夢を見続けるには、目覚めないことが肝心。つまり、この幻想世界で生き抜くには、神を犠牲にすることが必要なのだ。
And it is this theme that is acted out in the special relationship. - act out : 「演じる、行動で示す、態度に表す」
❖ "And it is this theme ~ "「そして、特別な関係性の中で演じられているテーマが、このテーマである」。特別な関係性の中で、幻想世界にどっぷりとつかり、神を排他した生き方を送っているわけである。決して実相世界に目覚めようとはしない。目覚めたら最後、幻想の特別な関係性は消滅してしまうからだ。
Through the death of your self you think you can attack another self, and snatch it from the other to replace the self that you despise. - through [θruː] : 「〜を通じて、〜の手を経て、手を通して」
- death [déθ] : 「死、消滅、死亡、死者、死んだ状態」
- attack[ətǽk] : 「〜を襲う、〜を攻撃する、〜を非難する」
- snatch [snǽt∫] : 「ひったくる、強奪する」
- replace [ripléis] : 「〜を取り換える、交換する、差し替える、切り替える、置き換える」
- despise [dispáiz] : 「軽蔑する、侮蔑する、さげすむ、侮る、嫌う」
❖ "Through the death of ~ "「あなたという自己の死を通して、あなたは他者の自己を攻撃出来る」。"and snatch it from ~ "「そして、あなたが軽蔑する自分という自己を置き換えるために、他者の自己を引ったくるのだ」。ここの「自己」も「愛」に置き換えて考えると理解しやすいだろう。特別な関係性を築くと、あなたは自分の卑小な愛に満足できずに、それを殺して相手の愛で代用しようとする。つまり、相手を愛することを拒絶し、相手があなたを愛することだけを強要するのだ。おまえは本当にオレを愛しているのか、愛しているならその証拠を示せ、と言わんばかりに相手を攻撃し、相手の愛を支配し、隷属化することで、自分は愛に勝利したと思い込む。
And you despise it because you do not think it offers the specialness that you demand. - offer [ɔ́(ː)fə(r)] : 「差し出す、捧げる、提供する」
- specialness [spé∫lnis] : 「特別性、特殊性」
- demand [dimǽnd] : 「求める、要求する」
❖ "And you despise it ~ "「そして、あなたは、相手の自己(つまり、愛)を軽蔑するようになる」。"because you do not ~ "「なぜなら、あなたは、相手の自己(つまり、愛)が、あなたの要求した特殊性を差し出してくれないと思うからだ」。あなたは、自分の愛を放棄して、相手からの一方的な愛を要求する。しかも、ただあなただけを特別に愛するように命ずる。簡単に言えば、あなたは相手にとって神になりたいわけだが、相手はあなたを神のように愛することは出来ない。そこで、あなたは相手の愛が不十分であるとなじり、軽蔑することになるのである。
And hating it you have made it little and unworthy, because you are afraid of it.- hate [héit] : 「〜を憎む、〜をひどく嫌う」
- unworthy [ʌnwə́ː(r)ði] : 「卑しむべき、下劣な、値打ちのない」
- be afraid of : 「〜を恐れる、〜を怖がる」
❖ "And hating it ~ "分詞構文、理由、「そして、あなたは相手の自己(つまり、愛)を嫌うので、あなたは相手の自己を卑小な卑しむべきものに変えてしまう」。"because you are afraid ~ "「なぜなら、あなたは相手の自己(つまり、愛)を恐れているからだ」。あなたを無条件に愛せない相手を軽蔑し、その愛をちっぽけな愛だ、下劣な愛だと決めつける。なぜか? 相手が自分を無条件に愛せないのは、実は自分がちっぽけで下劣な存在だと気付かされるからだ。相手の愛があなたに真実を伝えていることをあなたは恐れるのである。その恐れをかき消そうと、相手の愛の卑小さと下劣さを、殊更にまくし立てるわけである。まさに、特別な愛の関係性の末期症状である。おそらく、次の段階に発展すれば、そこに暴力が介入してくるだろう。隠されていた憎悪が完全に顔を出すのだ。そして、罪の意識はますます大きく膨らんでいく。