IV. Above the Battleground
戦場の上にて
1. Do not remain in conflict, for there is no war without attack. The fear of God is fear of life, and not of death. - remain [riméin] : 「依然として〜のままである、とどまる、滞在する、残る」
- conflict [kɑ́nflikt] : 「摩擦、葛藤、軋轢、争い、紛争」
- war [wɔ́ːr] : 「戦争、争い」
- attack [ətǽk] : 「攻撃、暴行、襲撃」
- fear [fíər] : 「恐れ、恐怖」
- life [láif] : 「人命、生命、寿命」
- death [déθ] : 「死、消滅、死亡、破滅、終わり、終焉」
❖ "Do not remain ~ "「コンフリクトの中に、居残ってはいけない」。戦場に留まってはいけない。"for there is no ~ "「なぜなら、攻撃の伴わない戦いはないのだから」。あなたの心に攻撃心がなければ、争いは発生することはなく、したがって、コンフリクトを起こすこともない。"The fear of God ~ "「神への恐れは、命への恐れであって、死の恐れではない」。短い文章であるが、非常に重要である。"fear of life"「命への恐れ」とあるが、"fear of love"「愛への恐れ」と考えれば、解釈しやすいだろう。なぜなら、実相世界では、命と愛の区別はほとんどないからだ。神は神の子を至上の愛をもって愛し、神の子もまた、心の奥底で神をこの上なく愛している。しかし、神の子が神から分離した後、神の子は、神の愛と自分の神への愛を封印し、ひたすら、愛という真実から目を逸らしてきたのだ。あたかも、神の愛を目の当たりにすることで、今夢見ている幻想のすべて、幻想世界のすべてが、崩壊し消えてしまうのではないかと、恐れているかのようである。分離を維持するためなのである。確かに、神の子の罪に対する神の罰を恐れる気持ちもあろうが、それ以上に、神の愛の現実を目の当たりにすることの方を恐れるのだ。神の愛によって、あるいは、神への愛によって、分離した自己を否定されてしまうような思いになるのである。もちろん、お気付きのように、この恐れを主導している実体は、神の子の心を支配するエゴである。したがって、神の愛を一番恐れているのは、実はエゴなのだ。エゴにとって、神と神の子の分離は、エゴの生命線であるからだ。
Yet He remains the only place of safety. In Him is no attack, and no illusion in any form stalks Heaven. - place [pléis] : 「場所、個所、住所」
- safety [séifti] : 「安全、安全性、無事、無難なもの」
- illusion [ilúːʒən] : 「幻想、幻覚、錯覚」
- in any form : 「いかなる種類のものであれ」
- stalk [stɔ́ːk] : 「~に忍び寄る、~をこっそり追跡する」
❖ "Yet He remains ~ "「しかし、神は、安全な場所として、留まり続ける」。つまり、実相的な真実の愛と命として神は存在し続ける。永遠不変な真実こそが、一番安全なのだから。神こそが、神の子にとって、一番安全な場所なのだ。"In Him is ~ "「神の中に、攻撃性はない」。"and no illusion ~ "「また、天の王国へ忍び込もうとする、いかなる形の幻想も存在しない」。神の住む天の王国、実相世界は一元論世界であり、真実はその対極概念を持たない。愛はあるが、その対極に憎しみはない。平和はあるが、争いはない。まったく純粋な真実だけの存在する世界に神は住んでいるのだ。神に、つまり、天の王国に、争いや幻想が忍び込む隙間は、完全に皆無なのである。プラトンのイディアの世界を連想すればいいだろう。
Heaven is wholly true. No difference enters, and what is all the same cannot conflict. - wholly [hóulli] : 「完全に、全く、全体として、全体的に、すっかり」
- true [trúː] : 「真の、真実の、本当の、本物の」
- difference [dífərəns] : 「違い、差異、相違」
- enter [énter] : 「~に入る、~に参加する、~に立ち入る」
- same [séim] : 「同じ、同一の、変わらない」
- conflict [kənflíkt] : 「衝突する、争う、抵触する、対立する、矛盾する」
❖ "Heaven is ~ "「天の王国は、完全に真実である」。虚偽という不純物が混じり込む可能性はまったくない。"No difference ~ "「違いというものも、一切、入り込めない」。一元論世界の実相世界では、存在は単一である。違いという概念が存在しないのだ。したがって、序列という概念もない。つまり、実相世界は階層構造をしていないのだ。単一で完全に平等な世界なのだ。男と女の違いもなく、優劣の差もない。大きな真実と小さな真実などという、大小の差もないのである。"and what is all ~ "「すべて、まったく等しいものが、コンフリクトを起こすことはないのだ」。振動数の等しい音は、うなり音を起こさない。波長の等しい光は、干渉し合わないのだ。
You are not asked to fight against your wish to murder. But you are asked to realize the form it takes conceals the same intent. - fight [fáit] : 「戦う、競う、格闘する」
- against [əɡéinst] : 「~に逆らって、~にそむいて、反抗して」
- fight against : 「~と戦う」
- wish [wíʃ] : 「願い、望みの物、願望、希望」
- murder [mə́ːrdər] : 「殺す、殺害する、凶行に及ぶ」
- realize [ríːəlàiz] : 「~に気が付く、悟る、自覚する」
- form [fɔ́ːrm] : 「形、外形、構造、姿、現れ」
- conceal [kənsíːl] : 「隠す、隠匿する、秘密にする」
- intent [intént] : 「意図、意向、意志、目的」
❖ "You are not asked ~ "「あなたの、殺害したいという思いと戦うようにと、あなたは頼まれているわけではない」。"But you are asked to ~ "「しかし、殺害したいという望みがとる(表面的な)形が、殺害の意図を隠しているのだと認識することを、あなたは要求されているのだ」。人を殺したいという直接的な欲望と戦うのはもちろんのことであって、取り立ててそれを要求されているのではない。そうではなく、一見、殺害と見えないような形をとる攻撃にも、その裏には、殺害したいという意図が隠されていることがあるので、それをしっかりと認識しなさい、ということである。憎しみや攻撃がどんな形をとってその意図を隠そうとしても、殺害という意図は隠しおおせるものではない。
And it is this you fear, and not the form. What is not love is murder. What is not loving must be an attack. - fear [fíər] : 「~を恐れる、~を怖がる」
- murder [mə́ːrdər] : 「殺人、謀殺」
- attack [ətǽk] : 「~を襲う、~を攻撃する、~を非難する」
❖ "And it is this ~ "「そして、あなたが恐れているのは、この殺害の意図であって、表面的な形ではない」。攻撃のとる形が恐ろしいのではなく、攻撃の形が隠しもっている殺害という意図が恐ろしいのだ。"What is not love ~ "「愛でないものは、殺害である」。"What is not loving ~ "「愛さないとは、攻撃に違いないのだ」。愛を失った心が意図することは、究極、攻撃であり、殺害である。したがって、愛を知らないエゴの目的は攻撃であり、究極的には殺害なのだ。エゴの最終目的が、神の子の十字架上の処刑であることを、しっかり、思い出そう。エゴは、神の子を甘言で誘うが、神の子を決して愛してはいない。エゴの思考システムに愛の字はないのだ。
Every illusion is an assault on truth, and every one does violence to the idea of love because it seems to be of equal truth.- assault [əsɔ́ːlt] : 「暴力、攻撃、暴行」
- truth [trúːθ] : 「現実、事実、真相、真理」
- violence [váiələns] : 「暴力、暴行、暴力行為、乱暴」
- idea [aidíːə] : 「考え、着想、発想、見解、意見、意図、狙い、目的」
- equal [íːkwəl] : 「同等の、程度が等しい、均等な、平等な」
- be of equal ~ : 「等しく〜な」
❖ "Every illusion is ~ "「あらゆる幻想は、真実に対する暴行である」。幻想によって真実を隠そうとする行為は、それもりっぱな攻撃である。"and every one does ~ "「そして、あらゆる幻想は、愛という概念に対する暴力行為である」。"because it seems ~ "「なぜなら、幻想が、等しく真実だと見なされるからだ」。愛や真実という実相の実在に対して、幻想はそれを否定するのだ。幻想自体は自分を実在だと信じ、真実だと思い込んでいるので(it seems to be of equal truth)、幻想に対峙する実相の愛や真実を攻撃するのである。いわば、糞ミソ一緒の混沌状態であって、糞がミソに向かって、オレこそが食える、と主張しているようなものなのだ・・・品格のない例で申し訳ない。
2. What can be equal to the truth, yet different? Murder and love are incompatible. - different [dífərənt] : 「相違する、違っている、異なる」
- incompatible [ìnkəmpǽtəbl] : 「両立しない、相いれない、矛盾した」
❖ "What can be equal ~ "「等しく真実であり、しかも異なっているものとは何か」。そんなものはない。"Murder and love ~ "「殺害と愛は、相いれないのだ」。そんなことはわかっていると言われるかも知れないが、この"Murder"「殺害」を「憎悪」に置き換えてやると、怪しくなる。憎悪と愛を同時に持ってしまうことは、この幻想世界では、日常茶飯事である。二元論世界であり、対極概念を必ず持つ幻想世界では、愛は容易に憎悪に変化する。あるいは、愛と憎悪は交じり合い、奇妙なグラデーションを作る。殺害したいという心と愛したいという心が同居する環境も、さして珍しいものではない。
Yet if they both are true, then must they be the same, and indistinguishable from one another. - both [bóuθ] : 「両方ともに、双方ともに」
- indistinguishable [ìndistíŋɡwiʃəbl] : 「区別ができない、見分けがつかない」
- one another : 「お互い」
❖ "Yet if they both ~ "「しかし、もしも、殺害と愛の両者共に真実であるなら、殺害と愛は同じものに違いないのだ」。"and indistinguishable ~ "「一方を他方と区別付けることが不可能だということになる」。そんなバカな話しはない。しかし、幻想世界では、こんなことが実際に起こるのである。だから、この幻想世界は狂気の世界だと言われるのだ。糞とミソの区別の付かない世界だから、狂気なのである。
So will they be to those who see God's Son a body. For it is not the body that is like the Son's Creator. - those who : 「~する人々」
- creator [kriéitər] : 「創造者、創作者、創設者」
❖ "So will they be ~ "「そこで、神の子を肉体と見る者達にとっては、殺害と愛は共に、区別の付かない真実だということになるのである」。"those who see God's Son a body"「神の子を肉体と見る者達」とは、幻想を実在だと信じる者達のことである。殺害という幻想を、愛という実相と区別出来ない狂気の者達にとっては、肉体という幻想と心という実相すら区別出来ないのである。そして、肉体も実在で真実、心も実在で真実、と宣言し、おまけに殺害と愛は共に実在の真実でまったく等しいものだと信じるのである。健康な肉体に健康な心が宿る、と世間では言われているが、真っ赤な嘘である。不健康な心が、肉体を幻想しているだけのことだ。不健康な心とは、罪の意識を抱いた、眠れる心のことである。
And what is lifeless cannot be the Son of Life. How can a body be extended to hold the universe? - lifeless [láiflis] : 「生命を持たない、活気のない」
- extend [iksténd] : 「広げる、伸ばす、拡張する、拡大する」
- hold [hóuld] : 「維持する、保持する、持続する」
- universe [júːnəvə̀ːrs] : 「宇宙、銀河、万物、森羅万象、全世界」
❖ "And what is lifeless ~ "「命なきものが、命の子であるわけがない」。神は命であり、神の子は神の創造した子であるから、同時に命の子なのだ。神の子に命の欠けているわけがない。"How can a body ~ "「肉体は、どうやって、宇宙を保持するために、拡張していけるだろうか」。肉体に宿る命は幻想の命であって、変化流動し、したがって、宿命的に肉体の命は滅びる。対して、実相の命は、永遠不変の命であって、分かち合われることで拡張増大する。それが、神の法であり、拡張増大する命、愛、喜び、平和、等々によって、実相世界という宇宙は維持されるのである。幻想の肉体が、その肉体的命を拡張して、宇宙を維持することなど不可能なのだ。
Can it create, and be what it creates? And can it offer its creations all that it is and never suffer loss?- create [kriéit] : 「創造する、創り出す」
- offer [ɔ́ːfər] : 「差し出す、捧げる、提供する」
- creation [kriéiʃən] : 「創作物、作品、創造、創作」
- suffer [sʌ́fər] : 「~を許す、耐える、我慢する、苦しむ」
- loss [lɔ́s] : 「失うこと、紛失、損失、喪失」
- suffer loss : 「損害を被る、打撃を受ける」
❖ "Can it create ~ "「肉体は創造したり、創造したもの自体になり得るだろうか」。肉体が生殖活動を通して子を生むことは、実相的真実の創造とは言えない。なぜなら、幻想の命を、幻想の肉体を通じて再生産することは単なる疑似創造だからだ。簡単に言えば、肉体は心という真の命を生み出せないのだ。肉体は、心という真実を創造出来ないのである。"And can it offer ~ "「また、肉体は、肉体であるところのものをすべて、その創造したものに提供し、なお、何も失うことがないなどと言えるだろうか」。肉体が生殖活動を通して子を生むとき、その子に、つまり、創造したものに提供するものといったら、一個の卵子と一個の精子だけである。肉体のもっているすべてを、その命も含めて、新しい肉体の命に提供するわけではない。つまり、親のもつ属性のすべてを子に継承することはないし、不可能なのだ。しかし、神が神の子を創造したとき、神は神の子に、神の属性のすべてを与えたのだ。命は勿論のこと、愛や喜び、美への感性、慈しむ心、真理、等々を、神は神の子に惜しげなく継承した。奇跡を起こすパワーも継承したのだ。神は、すべてを神の子に提供したのだが、しかし、神は何一つ失うことはなかった。神の法は、与えることは得ることだからである。神は、神の子の愛、命、喜び、平和、慈しみを、与えることで自ら得たのだ。つまり、かけ算をすればわかるように、愛や命が増大したのだ。これが、真の創造であって、幻想の肉体が成せる業ではない。