VIII. The "Hero" of the Dream
夢に登場する『ヒーロー』
1. The body is the central figure in the dreaming of the world.
- central [séntrəl] : 「主要な、中心となる、重要な、支配的な」
- figure [fíɡjər] : 「姿、人影、象徴、形、形状」
❖ "The body is the central ~ "「肉体は、世界が見る夢の中で、中心的な象徴となる」。幻想の世界にあって、肉体は、数々の幻想を演出する中心的な主役(ヒーロー)となる。肉体は、したがって、幻想を維持存続させるための重要な存在となるのである。言い換えれば、肉体から脱するとき、この幻想世界から脱することが出来るのだ。肉体といかに付き合っていくか、それがこの章のテーマとなる。
There is no dream without it, nor does it exist without the dream in which it acts as if it were a person to be seen and be believed.
- exist [igzíst] : 「存在する、生きている、生存する」
- without [wiðáut] : 「〜なしで、〜を持たないで、〜なしに」
- act [ǽkt] : 「行動する、振る舞う、役割を果たす、演じる」
- as if : 「あたかも〜かのように、〜と言わぬばかりに」
- person [pə́ːrsn] : 「個人、人格、人、人物、体、身体」
- seen [síːn] : 「see の過去分詞形」
- believe [bilíːv] : 「信じる、真に受ける、確信する、信頼する」
❖ "There is no dream ~ "「肉体を伴わない夢はない」。肉体を排した幻想はあり得ない。"nor does it exist ~ "「また、〜のような夢を伴うことがない肉体も存在しない」。"in which it acts ~ "「肉体が、あたかも、目に見え、存在が信じられるような人格を持ったものとして振る舞うことが出来るような」夢を伴うことがない肉体も存在しない。肉体が、現実的にそこに存在し、動いているのが確信できるような夢を見ているのだ。肉体は、圧倒的にリアルな夢である。リアル過ぎて、その実在性が疑われることがないのだ。
It takes the central place in every dream, which tells the story of how it was made by other bodies, born into the world outside the body, lives a little while and dies, to be united in the dust with other bodies dying like itself.
- place [pléis] : 「場所、個所、住所、席」
- tell [tél] : 「〜に話す、言う、告げる、教える、伝える」
- story [stɔ́ːri] : 「物語、話、情報、記事」
- tell the story of : 「〜の話をする、〜の説明をする」
- born [bɔ́ːrn] : 「生まれる、誕生する、産声を上げる」
- outside [áutsáid] : 「〜の外に、〜の外側に」
- a little while : 「つかの間、わずかな時間に」
- die [dái] : 「死ぬ、死亡する」
- unite [junáit] : 「結合する、一体となる、一体化する」
- dust [dʌ́st] : 「ほこり、ちり、煤塵、粉塵、塵埃」
- dying [dáiiŋ] : 「死にかけている、臨終の、消えかけている」
❖ "It takes the central ~ "「肉体は、あらゆる夢の中心的な位置を占めている」。"which tells the story ~ "「そして、肉体は、それがいかにして他の肉体から作られたか、また、肉体の外へ、世界へといかにして生み出されたか、さらに、肉体は、つかの間の間生きのび、そしてどう死んでいくか、死んだ肉体自体と同様な死にゆく他の肉体と、塵芥(ちりあくた)の中でどう結合させられるか、そういった物語を語るのである」。幻想の肉体がもっているさだめである。
In the brief time allotted it to live, it seeks for other bodies as its friends and enemies. Its safety is its main concern.
- brief [bríːf] : 「短時間の、短い、短命な、しばらくの」
- allot [əlɑ́t] : 「〜を割り振る、充てる、割り当てる、配る、分ける」
- seek [síːk] for : 「〜を探し求める」
- friend [frénd] : 「友人、仲間、友達、相棒」
- enemy [énəmi] : 「敵、敵国、かたき」
- safety [séifti] : 「安全性、無事、無難なもの」
- main [méin] : 「主要な、精いっぱいの、主な、中心的な」
- concern [kənsə́ːrn] : 「関心事、懸案事項、気遣い、懸念、心配、不安」
❖ "In the brief time ~ "「命に割り当てられたほんの短い時間の間に、肉体は、友としての、あるいは敵としての、他の肉体を探す」。"Its safety is ~ "「肉体の安全性が、肉体の最大の関心事ということになる」。ここは、解説は必要ないだろう。
Its comfort is its guiding rule. It tries to look for pleasure, and avoid the things that would be hurtful.
- comfort [kʌ́mfərt] : 「快適さ、快適性、心地よさ、癒やし、安らぎ」
- guide [gáid] : 「〜を導く、案内する、〜を指導する」
- rule [rúːl] : 「規則、ルール、規定、法則、規範」
- try to do : 「〜しようと試みる」
- look for : 「〜を探す、〜を期待する」
- pleasure [pléʒər] : 「び、楽しみ、快楽、楽しいこと、好み」
- avoid [əvɔ́id] : 「避ける、回避する、逃れる、敬遠する」
- hurtful [hə́ːrtfəl] : 「傷つける、有害な」
❖ "Its comfort is its ~ "「肉体の快適さが、主導的なルールとなる」。肉体的な快楽追求が、肉体の行動規範となる。"It tries to look for ~ "「肉体は、快楽を追求し、害になりそうなものは排除する」。ここも説明不要。
Above all, it tries to teach itself its pains and joys are different and can be told apart.
- above all : 「中でも、とりわけ、何にもまして、何よりも」
- teach [tíːtʃ] : 「〜を教える、指導する」
- pain [péin] : 「痛み、痛覚、疼痛、苦痛、骨折り」
- joy [dʒɔ́i] : 「喜び、歓喜、喜びの種」
- different [dífərənt] : 「相違する、違っている、異なる」
- told [tóuld] : 「tell の過去・過去分詞形」
- tell [tél] : 「〜を見分ける、分かる」
- apart [əpάːrt] : 「離れて、離ればなれで、バラバラに、別々に」
❖ "Above all, it tries to ~ "「とりわけ、肉体は、痛みと快楽が異なるものであり、別々に見分けられると、肉体自身に教えようとする」。ここの"joys"「喜び」は、実相的な真実の喜びを意味するのではなく、幻想世界の快楽を意味している。この世界の痛みも快楽も、共に幻想であり、単一の現象の単なる両端に過ぎないのだが、肉体は、痛みと快楽を分離し、異なった現象として認識するのだ。そして、痛みを悪と評価し、快楽を善と判断する。つまり、一つの幻想を、二元論に合致するように、分離分割し、評価判断するのである。
2. The dreaming of the world takes many forms, because the body seeks in many ways to prove it is autonomous and real.
- form [fɔ́ːrm] : 「形、外形、構造、姿、体つき、現れ」
- seek [síːk] : 「捜し求める、捜し出す、求める、追求する」
- in many ways : 「いろいろ、さまざまに、いくらでも、いろいろな意味で」
- prove [prúːv] : 「証明する、〜となる、〜であると分かる、立証する」
- autonomous [ɔːtɑ́nəməs] : 「自主的な、自立した、自治の」
- real [ríəl] : 「実在する、現実の、実際の、本物の」
❖ "The dreaming of ~ "「世界が夢見る夢は、様々な形をとる」。"because the body seeks ~ "「なぜなら、肉体は、肉体が独立した存在であり、実在するものだと、いろいろな手を使って、証明しようとするからである」。幻想を、いかにも実在の実相であると思わせる為に、たとえば、肉体の目は対象を視覚し、耳は音を聞き分け、手は触り心地を提供する。針を刺せば、肉体は痛みを感じ、撫でられれば、快感を覚える。肉体に付属する感覚器官は、すべて、肉体の実在性を証明しているかのようだ。
It puts things on itself that it has bought with little metal discs or paper strips the world proclaims as valuable and real.
- bought [bɔ́ːt] : 「buy の過去・過去分詞形」
- metal [métl] : 「金属」
- disc = disk [dísk] : 「薄い円盤状のもの、円盤」
- strip [stríp] : 「細長い切れ、細長い一片」
- proclaim [proukléim] : 「公表する、宣言する、宣告する」
- valuable [vǽljəbl] : 「役立つ、有益な、重要な、貴重な」
❖ "It puts things on itself ~ "「肉体は、世界が、価値があり実際的であると主張する小さな金属製のディスクや長めの紙切れによって購入された物を、肉体自身に取り付けたりする」。へんてこな表現にちょっと笑ってしまったのだが、肉体は、お金で物を買って着飾る、ということ。しかし、へんてこな表現だと感じる方がおかしいのかもしれない。考えてみれば、金属製のコインや紙製の紙幣が、いかにも大切にされる現実の方が、実相的観点からすれば、ずっとへんてこなのだから。
It works to get them, doing senseless things, and tosses them away for senseless things it does not need and does not even want.
- senseless [sénslis] : 「無分別な、非常識な、常識がない、無意味な」
- toss [tɔ́s] away : 「〜をポイと投げ捨てる、〜をポイと脇に置く」
- need [níːd] : 「〜する必要がある、〜を必要とする」
❖ "It works to get ~ "「肉体は、それらを手に入れる為に、働く」。"doing senseless ~ "「肉体は意味のない仕事をし、お金を、必要でも欲しくもない、無意味なものに投げ与えてしまう」。何とも、我が耳の痛くなる記述ではある。
It hires other bodies, that they may protect it and collect more senseless things that it can call its own.
- hire [háiər] : 「雇う、借りる」
- protect [prətékt] : 「保護する、守る、防御する」
- collect [kəlékt] : 「〜を集める、〜をまとめる、収集する」
❖ "It hires other ~ "「肉体は、他の肉体を借りてくる」。"that they may protect ~ "ここの"that"は"so that"のこと、「〜するために、その結果」、「他の肉体が、自分の肉体を守ってくれるように、そして、肉体が自分自身の物だと言えるような意味のない物をより多く集めるために、」他の肉体を借りてくる。一言でいえば、肉体は所有欲にかられる、ということ。肉体と欲は、切っても切れない関係にある。ここでは、肉体の物欲について語っているのだ。
It looks about for special bodies that can share its dream. Sometimes it dreams it is a conqueror of bodies weaker than itself.
- look about for : 「〜を見回して探す、〜を捜し回る」
- special [spéʃəl] : 「特別な、独特の、特別の、特有の」
- share [ʃέər] : 「〜を分ける、分かち合う、共有する、共用する」
- conqueror [kάŋkərər] : 「征服者、勝利者」
- weak [wíːk] : 「弱い、劣っている、力がない、脆弱な」
❖ "It looks about for ~ "「肉体は、夢を分かち合うことの出来る特別な肉体を探し回る」。ここでは、肉体のもつ肉欲について語っている。性欲というより、肉体的支配欲か。"Sometimes it dreams it ~ "「時には、肉体は、それ自身よりも弱い肉体の征服者になる夢を見る」。自分より弱い肉体の征服者、支配者になろうとする。権力欲もその一つ。
But in some phases of the dream, it is the slave of bodies that would hurt and torture it.
- phase [féiz] : 「面、相、様相、位相」
- slave [sléiv] : 「奴隷、捕らわれている人」
- hurt [hə́ːrt] : 「〜を傷つける、〜に苦痛を与える」
- torture [tɔ́ːrtʃər] : 「〜を拷問にかける、〜に拷問を加える」
❖ "But in some phases ~ "「しかし、夢の、ある相においては、肉体は、肉体を傷つけ責め苛(さいな)む、(別の)肉体の奴隷となることがある」。肉体は、他の肉体の攻撃目標となり、傷つけられたり、破壊されたりする可能性があるのだ。肉体が、弱肉強食の世界を、象徴的に演出している。